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10/31 HAPPY HALLOWEEN !
配布は終了しました。

[神無月の三十一]と言えば・・・そう、ハロウィンというのがある。
異国の言葉からして、ガルア大陸で発生してないのは解る。
しかし、その行事が定着した今、様々な仮装をして、楽しみことをしている皆の衆。
カシアの村でも、その祭りで大いに盛り上がっていた。



「とりっく おあ とりーと! お菓子くれなきゃイタズラするぞ!」
「お前、相変わらず発音へったくそだよなぁ・・・。おら、飴で文句ねぇだろ?」
「ありがとう、兄さん!!」

桜花は相変わらずよくない発音で、影流から菓子を集(たか)っていた。
しかも5個もあげるあたり、影流も優しいところがあるのかもしれない。

桜花の衣装は・・・何と[黒猫]だ。

手を覆う程の手袋に、首には首輪(鈴つき)を付け、更に短パンと黒のノースリーブという、
ちょっと危ない格好だ。
しかも頭には猫耳カチューシャを付け、ご丁寧に短パンには黒猫の尻尾も取り付けている。
これらは全て、春華の計画だ。見事に成功している。

影流の方はというと、桜花と反して[狼男]だ。
お年頃と言える歳に狼男とは、ちょこっと厳しいものがある。
全ては春華の計画にまんまとはまった、影流にも責任はあるのだが・・・。

「おい。まだ春華のところに行ってねぇんだろ? 早く行ってやれ。お前のこと、待ってるぞ」
「姉さんが? わかった! 兄さん、ありがとうね〜!」
純粋な眩しい笑顔で、その場を立ち去った桜花。
手を振り返していた影流は自分の格好を見て、深く溜め息をついた。



「あ! 姉さーん!!」
「桜花? ・・・やっぱりあたしの目に狂いはなかったわね」
ふと一瞬何か呟いたが、桜花には聴き取れなかった様だ。
なぁに? と言いたげに、首を傾げている。
桜花の為に言っておくが、本人は無自覚だ。決してわざとやっているのではない。

「本当に何でもないのよ。桜花?」
にっこりと微笑まれれば、単純な桜花はすぐに騙される。
姉の裏側にある思考など、所詮読めやしないのだ。

「あ! 姉さん、とりっく おあ とりーと!」
「そうねぇ・・・これでいいかしら?」
明らかに特別に用意されていたであろうチョコレート(ラッピングつき)を桜花に差し出す。
桜花は装飾に興味ない様で、チョコレートだけを見ている。
「姉さん、ありがとう!」
「どういたしまして。・・・あ、桜花。Trick or treat!」

魔女の格好をした春華は、にこやかにそう言葉を口にした。
にこにこしているのが怖いと感じるのは、私だけじゃないはず。

「お菓子? はい、あげる!」
影流から集った飴を2個ほど、春華に差し出す桜花。
嬉しそうな顔をしている春華だが、内心は地団駄踏んでいた。

(あたしの計画がずれてる・・・! まさか、影流に会ったのかしら!?)
「お、桜花・・・。その格好で、誰かに会った?」
「うん? 普通に兄さんに会ったけど・・・それがどうかしたの?」
「そう。何でもないのよ?(・・・ちょっとあいつに痛い目を遭わせようかしら)」

お腹真っ黒な思考に、桜花が気付くはずもなく、
それと影流の危機的存続にも気付くはずもなく、
桜花は影流に向けたものと同じ類の笑顔を、春華に向けて退散した。



「お・・・、ルディアー!!」
「・・・あぁ。桜花か」
少しばかり、否、かなり疲れ気味の顔で桜花の方へ近づく。
だが、真紅の瞳が少しだけ優しい波紋を描いたことに、桜花はおろか、本人も気付いていない様だ。

「早速だけど、とりっく おあ とりーと!」
「相変わらず、お前の発音には問題がありすぎるが・・・これでいいか?」
ルディアが桜花に差し出したのは、やたらとデカイ箱。
長方形の薄い箱で、何が入っているのか全く想像出来ない。

「・・・これ、持ち運びに相当不便な大きさだよね?」
「当たり前だ。家に帰ってから、お前を捜していたんだからな」
かなり疲れていたのは、どうやら桜花を捜していた為らしい。
だが、それだけでない様な気が、桜花は感じ取った。

「ルディアのことだから、女の子に追い掛け回されてたんでしょ?」
「・・・そうだ。一体オレの何処がいいのか、さっぱりだ」
そんなルディアは、掛けてあるマントを邪魔臭そうにしていた。

サラサラと流れている、綺麗な菫色の髪。
時折見える、鋭い犬歯(勿論春華が無理矢理付けた)
闇に棲んでいる者を思わせる、鋭い真紅の双眸。
ルディアの仮装は、彼にぴったりの[ヴァンパイア]だ。
ばさばさと風に吹かれる度、眉間の皺は増えるばかりだ。

「俺ん家来る? その方が安全だよ。姉さんが護ってくれるから」
「・・・世話になるか」
珍しく、桜花の厚意を素直に受け取るルディア。
それだけ、本当に参っているのかもしれない。

「じゃ、一緒に行こっか。嗅ぎつけられたら、面倒なことになるし」
ルディアを追い掛け回す女子達を、桜花はあまり快く思っていない。
本人が嫌がっていることを平然とやってのける人種を、桜花は好まないのだ。
好意があるのは良い事だが、もう少し[ルディア自身]を見てやるべきではないのか?
それが、桜花の本音だ。

「・・・桜花」
呼び止めたルディアに、桜花は驚きつつも、「何?」と返答する。
月の光を浴びるルディアは、本物のヴァンパイの様に見えて、
少しだけ、恐怖というモノが沸き起こった。

「・・・Trick or treat」
今まで、そんな台詞は聴いたことがなかった。
だが、目の前の人物は、間違いなく桜花に向けて言っている言葉で・・・。
桜花は躊躇いながらも近づいて、影流に貰った飴を差し出す。
それを、白く輝いている大きな手で受け取り──飴の包みを取り、口に含んだ。

「・・・甘いな」
「そりゃそうだよ。飴だし」
「・・・そうだな」

口の中で味わう様に転がし、桜花に向けて、手を差し伸べる。

「・・・帰るぞ」
[ヴァンパイア]が差し出した白い手に、[黒猫]はそっと手を乗せた。
ふっと笑みを零したヴァンパイアは、黒猫を連れ、そのまま帰り道を歩みだした。

「ソレはしっかり持て。・・・皆で、食べるものだからな」
「片手で足りるだろう?」と、優しい声音で桜花に向けた。
何時もより、少しだけ弱っている彼に・・・。

「ハッピーハロウィン!」
何時もなら上手く表すことの出来ない[微笑]を、疲れているルディアに向けることが出来た。



〜おまけ〜

「影流・・・覚悟しなさい」
「俺何もしてねぇはずだろ・・・って、ギャァァァァアア!!」
「ルディアー。このパンプキンパイ、美味しい〜!」
「それはよかった。どんどん食え」

一応補足
・桜花15歳
・ルディア17歳
・春華&影流18歳

旅の一年前のお話でした・・・。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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