空へのこたえ 先生
「遅刻ですね……」
 先生のあきれたような声と共に、チャイムが鳴り響く。
「……遅れてすみません」
 僕と恭太は、みんなからの視線を感じながらすばやく席に着いた。日差しであたためられた放課後の少人数教室は、数名の男子だけしかおらず、がらんとしていた。
 教卓に立っているのは、数学少人数教室担当の東谷先生だ。
 ここに集まっているのは全て、前回の単元テストの点数が合格点に満たなかった者が、東谷先生の補習を受けにきている。僕と恭太も、点数が悪かった。女子たちは、僕らが放課後の補習に行くと知ると「バカだなぁ」とこちらを笑った。
「大丈夫。次の単元テストには100点が取れるようになりましょう」
 励まされていても、事実という重みはぬぐえなかった。
 とりあえず、教科書とノートを開き、ひたすら問題を解く。
 補習は30分で終わる。これが毎日1週間あり、毎日受けに来れると先生から「修了証」を受け取り、終わりとなる。
 だが、遅刻したりするとカウントはしてもらえない。4日連続でカウント出来ない者は、さらに1週間の補習が待っている。
 それが、僕と恭太だった。

 授業が終わると、恭太が眠たそうな顔をしてこちらに近づいてきた。それを、東谷先生が呼び止める。
「ちょっと、あなたたち。来なさい」
 僕らは顔を見合わせ、目配せをしつつ、先生の前までやってきた。
「これで、4日連続遅刻となります。よって、カウントは出来ないということです。分かりますね?」
 僕らは素直に「はい」と返事をした。
「つまり、あと1週間の補習を受けることになります。それも知っていますね?」
 僕らはうなずいた。先生はため息をついて、
「もう、来週からの補習はあなたたちだけになります。少人数教室を開いていても意味がありませんね」
 次の言葉に、僕らは危機感を覚え、うつむいたままの顔を上げた。
 先生が僕らを見下ろして、あきれたような顔をしていた。
「次の土曜日は、学校を開けることになりました。つまり、あなたたちだけが補習に来ても大丈夫ということです。土曜日に予定はある?」
 その迫力に、僕らは事実予定が無いながらもわざとらしく首を振り続けた。「なら丁度いいわ」と先生は安堵の表情を浮かべた。
「土曜日の補習は1時間、宿題もちゃんと出すので、来週の月曜日までにはやってくること。いいですね」
 僕にとって、数学の教科書たちはさらに重く感じられた。
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