空へのこたえ 拒絶
 土曜日、恭太と校門の前で待ち合わせをする約束だったが、当日の朝になって恭太が行けなくなったと電話をしてきた。
「ごめん。どうしても行かなきゃいけない用事が出来てさ。今日じゃなきゃ駄目だって親がうるさいんだよ。だから……ごめんな、一人で行って早く終わらせとけよ」
 僕は少し悲しくもあったが、補習を終わらせるためには行くしかなかったので、素直に返事をして電話を切った。
 一人で学校まで行き、誰もいない静かな下駄箱で靴を履き替え、そのまま少人数教室へ向かった。どうせ一人しかいないのだから、緊張する必要は無い。僕は思い切って教室の扉を開けた。
「失礼します……」
 先生がひとつの机に座っていた。その机は、もうひとつの机と向かい合わせに並べられていて、そのふたつの机が教室の真ん中で孤立していた。
「いらっしゃい。じゃあ、座りなさい」
 僕は黙って席に着いた。
 そして、教科書やらを取り出してから、先生に尋ねた。
「恭太、連絡したんですか?」
 僕はてっきり、恭太は欠席の連絡を学校に入れていないと思っていたのだった。
「昨日ききましたよ。家族で実家に帰る用事が出来たそうで。だから今日はあなた一人。二倍勉強できるから、まぁその意味では良かったわね」
 先生は三枚のプリントを僕の前に差し出した。
「今日はこれを解いてみて。教科書やノートは見てもいいから、その代わり全問正解してね。全問正解したら、宿題のプリントを渡すから、帰っていいわ」
 それは無茶だ。でも、自力で解くよりはいくらかマシだろう。


 小一時間後、僕はようやくプリントを終えた。
 教科書を見ながらの方がかえって疲れてしまい、いい勉強になった。先生のアドバイスももらいながらだったので、自力で解くよりマシという考えは甘かった。
「はい、はい、はい……。じゃあ、終わりね。全問正解よ」
 先生は教卓に置かれた一枚のプリントを差し出した。
「ありがとうございます」
 先生は僕にうなずいてから「ねぇ」と声をかけた。
「矢川君なんだけど、補習が嫌だったのかしらね。いきなり休んだりして。今日、とりあえずおうちに電話しておくつもりだけど」
「だったらズルい。一人だけ楽して」
 先生はふぅっとため息をついた。
「そんなことないわ。補習を受けなくて困るのは矢川君だもの」
「けど、恭太が休んだのは偶然だから」
 僕はそうきいていたのだ。
 けれど、先生は否定した。
「それが、違うと思うのよね。これ、あんまり言いたくないんだけど、去年のテストで矢川君の補習を受け持ったから、土曜日に補習に来るようにいったのね。でも、矢川君来てくれなかったのよ。それから補習は絶対に放課後しか来てくれなくなってたから、今回も不安だったの。でも、あなたがいるから一緒に来てくれるって期待してたのになぁ」
 僕は、先生の話を聞いてだんだん不安になってきた。恭太は、何かを隠している気がする。
「今度補習があったら、あなたから釘を刺しといてくれる?さりげなくでいいから。先生から言われたなんていっちゃ駄目よ」
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