短編小説 宇宙船の惨劇(トラジディー)
今も、その宇宙船はガタガタゴトゴトと騒音をたてながら急降下していた。ほんの、10分前のことだった。
この宇宙船、ドミー星第32号宇宙観測船は無事にドミー星を離陸し、地球時間単位で1時間以内に2分の誤差でドミー星宇宙観測センターに帰る予定だった。
ところが、ドミー星を出て宇宙空間に出た途端、未知の宇宙海賊船に攻撃された。
宇宙海賊船は近年で増えつつある。情報のたくさんのった宇宙船を狙い、それを壊すことで首領(ボス)に報酬をもらうのだ。
ドミー星は、宇宙の中で3つある宇宙観測星のうちのひとつだ。観測船を定期的に打ち上げ、宇宙内の情報をいち早く各惑星に広めるのが役割だ。
宇宙船打ち上げ費用は、宇宙連盟からでる資金でまかなわれている。だが、宇宙海賊船が船体爆発砲を発射すると、宇宙船にある情報のほとんどが消滅してしまう。それによって宇宙連盟に赤字を出させることが海賊船集団の目的だ。
そして、この第32号宇宙観測船も攻撃された。
今も急降下を続けている船体の中に、2人のドミー星人がいた。
「くそっ。なんてことだ」
一人のドミー星人が叫んだ。彼はミケルといい、操縦席にすわって大声をあげている。
「連絡は取れますか」
もう一人のドミー星人である彼はミケルの第一助手で、オレージという。
「聞こえるか!第32号宇宙観測船のミケルだ!緊急事態発生!宇宙海賊から攻撃を受けた!今、急降下中!」
ノイズのかかった応答がきこえてきた。
「――こ…ちら…ザー…ドミー星…宇宙、観測…所……。第…32号…ザー……宇宙観測船…カ…ルペル星…方向…落…下中……。こちら……」
「だめだ!」
ミケルは叫んだ。「機械の故障がはげしい!もうすぐ連絡が取れなくなるだろう」
「危険です、ミケル船長!ただちに着陸態勢をとり、最寄りの惑星に着陸の用意を――」
「もう、遅い……」ミケルは搾り出すような声を出した。
「着陸態勢に入る時間がない……このままでは……」
「墜落!」恐怖に顔を真っ青にしてオレージは言った。
「急いでエアロケットの準備を!あれを使えばなんとか脱出できます」
「既に機械全体の91%が故障している……」
ミケルの言ったすぐあとで、飛行安定装置がバリン!と音をたて、ガラスごと割れた。
機械のほとんどが火花をちらしてショートし、光はあわただしく点滅している。ノイズのかかった応答はとぎれたまま、ザーと雑音を鳴らしている。
気圧が急激に変化した。気圧安定装置が異常を起こして赤ランプを点滅させている。
頭が痛い。二人は頭をおさえてうずくまる。
異常は既に飛行に影響をもたらし、船体がガタンガタンとゆれる。
ゴゴゴゴゴゴと轟音をあげ、まっさかさまのような状態で落ちていく。
もう、声も悲鳴も聞こえない。
「異常が早くはありませんか…?」
またもオレージは絞り出したような声をあげた。
「異常が早いのは……宇宙の環境汚染が進んでいるからだ。ゴミやチリが、攻撃の時それ以上のダメージをくらわしている。地球を観測しに言った者の話だと、地球は自分たちが汚染した環境を救おうと、その対策について必死だそうだ。そこからひき起こる問題は多い。生物も住みにくくなり、住む環境はどんどん悪化していく。今食い止めないと危険な状態にある。宇宙も同じだ。ちりやガスなどを放っておいて対策を十分していなかった――」
今、宇宙全体が環境問題に悩まされている。太陽系の惑星・地球が以前から環境問題の対策が深刻なことについては、多くの宇宙観測船の報告書で明らかになっている。
それぞれの星から出るゴミやチリが宇宙空間をゆっくりとただよっている。宇宙人達は、一刻も早くこの問題を片付けなければいけないのだ。
ミケルとオレージの第32号宇宙船は、ドゴゴゴゴゴゴゴと轟音をたてながら、カルペル星に近づいていった。
「それが、この結果だ――」
「ミケル船長!!」
ドガ―――――ン!!
次の瞬間、第32号宇宙観測船はカルペル星の広大な荒地の上に激しく墜落した。
微塵になった宇宙船は、カルペル星に巨大なクレーターを残して消えた。
ノイズで聞こえづらかったものの、ミケルの最後の言葉はマイクからしっかりと宇宙観測センターに聞こえていた。
「環境問題を、放っておいてはならない」
第32号宇宙観測船は、宇宙を救った。