▼短編 少年と僕とローカル電車

電車内


ぽっかりと空いた向かい側の席


まるで誰かが座るのを待っているかのように


まるで誰かが座っているかのように


そこは空いていた



でも、僕には見えたんだ


小さな男の子が足をぶらぶらさせて楽しそうに座っているのが――…





=== 少年と僕とローカル電車 ===





田舎のこじんまりとしたローカル電車


僕はいつもこの電車に乗って終点の駅付近にある学校へ通っている


田舎のローカル電車なんて2時間に1本しか走っていないこの電車


一つ乗過ごすととんでもないことになってしまう


でも僕はこの電車が好きだった


流れて行く景色が綺麗だと思う


緑のたくさんある田舎の線路


回りを通り過ぎるのもまた緑


そして小さな男の子


いつもそこに座っていてにこにこと楽しそう


足をぶらぶらさせているのが可愛いと思う


僕以外の人には見えてないらしく、誰もその子に気付かない


2両しかないこの電車


顔ぶれはいつも同じ


大学生くらいの女の人


高校の制服に身を包んだ女子高生の3人組


いつもイヤホンをして寝ている男子高生


くたびれたスーツを着た初老の男性


大きな荷物を大切そうに抱えるお婆さん


そして僕と男の子


いつもみんなそこが自分の席だとでもいうように同じ席に座っている


男の子の正面の席


そこが僕の席


今日も電車は走る




「なんだぁ?このオンボロ電車はぁ〜」




突然乗り込んで来たのは朝帰りだろうスーツを着崩し顔が真っ赤な酔っ払い


みんな迷惑そうにそいつをみる


僕も気分が悪かった




「ぁ……」





不意に男は僕の目の前の席に近付いた


そこにはやっぱり男の子


でも男には見えていない


ひょいっと男の子は通路におりた


そこに男が座る


男の子はきょろきょろと辺りを見渡して…




僕を、みた




「ぇ…?」




いつの間にか男の子は僕の膝の上


ちょこんと座ってにっこり笑う


足をぶらぶら、楽しそう


なんだか僕も楽しくなって男の子を見る


僕にしか見えていない男の子に笑いかける


でもそれははたからみればおかしいこと


僕は本を読むふりをして男の子の腰に腕を回した

ガタンガタン…駅に着くたびに減っていく乗客


ガタンガタン…終点まであと2駅


ガタンガタン…男が電車をおりた


ガタンガタン…気付けば乗客は僕と男の子だけだった


緑が過ぎていく



きぃー…



終点まできてしまって、僕は名残惜しげにゆっくりと立ち上がる


男の子はひょいっとおりて、もとの席に座った


扉が開いて僕は電車からおりた


ホームに立ってゆっくりと歩く




――…ありがとう




はっと、息をのむ


振り返ると男の子が笑顔で手を振っていた


僕も笑顔で手を振り返す


そして歩き出す


帰りも男の子に逢えるのを楽しみにして……
2007/6/29(Fri) 21:57
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