▼短編 見つけたよ
遠くから、呼ぶ声がする――…

きっと僕にしか聞こえていないのだろうけれど…





=== 見つけたよ ===





「こんにちわ」


不意に立ち寄った小さな公園で、声をかけられた

そこには小学生くらいの小さな子ども

公園には誰もいなかった


「こんにちわ、君一人?」


その子の目線に合わせて屈み、首を傾げる

するとその子は嬉しそうに表情を輝かせた


「うん!!かくれんぼをね、してたんだけど みんなわたしのこと みつけてくれなかったの」

「そっか…じゃぁ僕と遊ぼうか」

「ほんと…?」

「うん、僕が鬼になるから、10数える間に隠れて」


言うが早いか、その子は嬉しそうに頷く

僕は荷物をその場に置くと自分の目をふさいだ

数を数え始めた


「いーち…にーぃ…さーん…」


嬉しそうに燥ぐその子の声は少しすると聞こえなくなった


「はーち…きゅーぅ…とぉ」


ゆっくりと手を退けて、目を開く

広がるのは小さな公園の遊具たち

ぽつりと自分だけがそこにいる


「もーいーかい」


その声に答えるものはなかったけれど、それはきっと隠れている場所を知られたくないから

さて、いったい何処へ隠れてしまったのか

狭い公園内

隠れる場所はそうそうないけれど…


滑り台の影? 違う

公衆トイレの中? 違う

植木の並ぶ草の影? 違う

大きな半球状のドームの中? 違う


では、いったい何処へ…?



「クスクス」



その時、鈴を転がしたような小さな笑い声が聞こえた

振り向いて、笑う



「見つけた」

「あーぁ、見つかっちゃった」


その子は後ろにいた

ふわふわと浮いて、僕の頭上近くに


「それは少し狡いよ…?」

「クスクス…みつけてくれて ありがとう」

「うん、ほらもう逝かないと…」

「うん、ありがとう…あそんでくれて ありがとう」



―――ありがとう…



鈴の音のように鳴って、その子は消えてしまった

風が吹いて、外燈の下で桜が散った


その子は無事に天国へ辿り着けただろうか

そしてまた、この地へと還ってくるのだろうか




―――いつもどこかで僕を呼ぶ声がする…




大丈夫、君は一人じゃないよ



2008/4/16(Wed) 14:28
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