▼人形劇 第三話





「私の姿が見えるんですね?」
  






 突然そんなことを言われて、祷頼は混乱した。

 姿が見える?あたりまえだ。

 視力は悪くない。

 何を言っているんだこの人は…。


 「あぁ―――やっと思い出せた…語りを…そう、そう…この曲にはこの語り…この語りしかない…。」
 

 わけのわからないことばかり一人で呟いている。
 
 どうやらあまりかかわらない方がよさそうだ。
 
 そう判断した祷頼はくるりと方向転換した。


 が…。



 『私は独り―――くるくるくるくる回るだけ…』

 
 突然その人は謳いだした。
 
 先ほどのメロディーに乗せて謳いだした。

 
 『舞えよ舞え―――言われるままに、乞われるままに―――』 


 何故だか祷頼はその場から動けなくなっていた。
 
 この詩が自分を引き止めている…。


 『己が道を絶ちはらい――彼の川渡らん…いざ逝かん――――』

 「あ…あぁ…ぁ゛……ぁ…あ゛…」

 『貴方はいらない――――いらない子――』

 「や、め…やめ…て…。」

 『壊れていく――何もかも…壊して壊して崩れ逝く…』


 嫌だ…嫌だ…嫌だ――――…。
 
 知らない…知りたくない…僕は…僕は―――――――…っ


 『さぁ逝こう…彼の岸へ…此の岸は壊れていくよ――すべてを失って――すべてを捨てて―――――』


 くるくるくるくる回りながら、少女は詩をつむぎだす。
 
 くるくるくるくる…ゆらゆらゆらゆら…。

 
 『夢にまでみた彼の岸へ…何度も何度も逝きかけた彼の岸へ…』



 いらない

 こんな感情―――いらない…

 欲しくない

 知りたくない

 壊したい
 
 嫌だ嫌だイヤだイヤダいやだいや――――…


 「お前なんか要らないっ消えろ…消えろ…消えろ―――…」


 無意識に言葉が出てくる

 なんだこれは

 こんなの知らない
     
 でも、『僕は』――知ってる…


 「素敵ね、本当に…あなたの詩は―――素敵…」


 綺麗な笑みを浮かべて、心地良さそうに彼女は…泣いた


 
2007/2/6(Tue) 19:02
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