▼人形劇 第五話
―――…小さい頃に親に捨てられた
気付いた時には孤児院にいて、親の顔なんて知らない
親がどういうものなのかすら、知らない
ただわかるのは、それが日本人とどこかの国の人間だということ
見た目ではあまり分からないが左の瞳が違っていた
濃い、深い、蒼
髪も顔つきも日本人特有のものなのにその瞳だけは違っていた
光の加減によって色が解ってしまう
だから前髪を伸ばした
見えないように
苛められないように
幼いながらの苦肉の策だったそれが効を成すことはなかった
周りからは異端だと蔑まれ、無視された
教師は言葉では祷頼の味方だと言っていたが、子供心にでさえそれは歴然だった
毎日が苦痛で死んでしまいたかった
しかし、小学校へあがる歳になった頃…今の養父母に出逢ったのだ
彼らは子供がいなく孤児院に子供を引き取りたいと尋ねて来たのだ
そこで院長は祷頼を推薦した
厄介払いがしたかったのだろうと思う
だが、ここから出られるのなら良いかもしれないと祷頼は承諾
それからすぐに手続きが行われて祷頼は高阪の家に引き取られたのだ
初老の養父母は祷頼を本当の息子のように可愛がってくれた
しかし祷頼は心を開こうとはしない
それは今でも続いている
小学校中学年の時イギリスに留学した
養父母は違う環境で祷頼を育てようと考えたのだ
それから6年を英語圏内で過ごした祷頼は少しずつだが心を開くようになっていた
今まで部屋に閉じこもることが多かった祷頼が家の手伝いで何かすることはないかと聞いてくるようになったのだ
これには養父母も大いに喜んだ
高校は日本で通いたいと言い出したのは祷頼だ
どれだけの変化があったのかは一目瞭然だった
ただ変わらないのは長い前髪
左目を隠すために伸ばしている髪だけは変わらない
『義母さんはその瞳の好きだよ』
その言葉がどれがけ嬉しかったなんて知らないだろう
いつもいつもこの瞳を見るたびに思い出す幼い頃の記憶
そこに現れた一点の日差し
この人たちに引き取られてよかったと思える
自分は何故生まれてきたのだろう
辛いだけなら、生まれてこなければ良かった
もう、生きていく理由なんかない
そんなことばかりを考えていた自分に出来た居場所
きっと、もう…大丈夫だ
物語は、始まったばかりなのだから…
2007/6/6(Wed) 19:03