▼羽根の折れた天使 第十五羽


雨が降ってきた

夕立だ

雨が僕に叩きつく

そんなこと、全然気にならないほど目の前の光景に驚いていた

クゥ…じゃない?

僕が知っているクゥは小さくて頼りなくてほっぺたの柔らかい、優しい笑顔

でも…

誰だ…?


「…クゥ?」

「……」


コクリと小さく頷く

そこに居たのは僕よりも大きくて綺麗で中性的な顔をした


天使


まさに、目の前にいる『クゥ』は天使そのものだった

雨が降っているのにその真っ白な服には一つも水滴はかかっていない

僕はすぐにびしょ濡れになった

雨に濡れるのは好きだ

でも

目の前にいる『クゥ』を見ていると、何故僕は濡れているのか不思議になった

そんなことを思うほど…その光景は異常だった


「これが、本来の私の姿です」


一人称は今までの「僕」ではなく「私」

その姿に相応しいと思う

でも、こんなの知らない


「これが本来私が持つべき姿です」

「―――知らない」

「…」

「僕が知ってるクゥは小さくて頼りなくて…チョコが大好きで……僕に悪戯しかけて笑って…」

「……それも全部、私です」

「――――…っ」


なんで、だよ

さっきまでの姿のほうが良かったのに…

なんで本来の姿になんてなるんだよ


「わけ、わかんない…よ、なんで…」

「私達が力を使うためにはこの姿にならなければなりません」

「力…?」

「はい」


そう言って『クゥ』は僕に手を伸ばしてきた

僕の額に触れると何かを呟く


「―――ごめんなさい…今まで、ありがとうございました…大好きです、ですから…生きてください」


その言葉を最後に頭に衝撃が走ると僕の意識は暗い暗い闇の中へと堕ちて行った


「どうか、生きてください…僕が彼方の魂を運ぶことができるそのときまで―――…」


―――彼方の魂はとても美しくて僕なんかの位の天使にはとても運ぶことができないから…
2007/4/8(Sun) 20:30
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