▼Simple Birthday In the past
 浜田は一人で公園にいた。いつもは近所の友達と一緒に来て遊ぶのだが今日は違った。昨日遊び疲れて家に帰ろうとしていたとき、泉に今日ここに来いと呼び出されたのだ。

「いずみ、おそいな〜」

 自分から呼び出したくせに泉は約束の時間になっても来ない。浜田は待ちきれなくて公園の遊具で一通り遊んでしまった。もともと小さい公園だということもあるが、毎日来ている場所だからかすぐに見飽きてしまった。

 ここってこんなにつまらないばしょだったっけ、と浜田は思った。泉が来るまで待てそうもない。それに来年小学校にあがるくらいの年頃である浜田に、待つという行為はいささか難しすぎる。

 「もうかえっちまおうかな」

 浜田はブランコに乗って座りこぎをしながらそう呟いた。辺りを見渡してみても泉が来そうな気配は全然ない。浜田は意を決した。

 「よし、かえろう」

 ブランコをぱっと飛び降りると一目散に家へ向かった。家にはテレビもお菓子もそしてボールもある。それでも浜田は公園のことが気になったのでお菓子を食べたら、ボールを持って公園に戻ろうと考えていた。

 「ただいまー。おやつたべたい!」
「あら?今日は早かったわね」
 
 浜田が帰るとお母さんがそう迎えてくれた。浜田はお菓子を受け取るとテレビの前に走っていって、真ん前の特等席で食べている。
 お菓子を食べ終わってからもずっと次から次へと続くテレビ番組に夢中になっていた。お母さんにそろそろ止めなさいと言われても聞こえていない。
 公園のことなどすっかり忘れていたとき玄関の方でどんどんと扉を叩く音が聞こえた。お母さんは気付いてない、仕方がないので浜田は自分が出ることにした。

 がちゃりと扉を開けるとそこには泉が立っていた。浜田は公園で待ち合わせしていたのをすっかり忘れていたことに気付いた。だがそのことを謝るより先に泉が震えていることに気が付いた。たぶん浜田が帰ったすぐ後に来たのだろう、それからずっと公園で浜田を待っていたらしい。今日はあまり寒くはないが風が強く、長時間外に居るのが無理な天気だった。

「いずみ!?だいじょうぶか?」
 
 泉はこっくりと頷くと両手を差し出してきた。何かと思って浜田が見るとそれは新品のグローブとボールだった。浜田が驚いて泉を見ると、泉は寒さで赤に染まった頬を真っ赤に染めながら笑った。

 「ぼくのたんじょうびにはまだとやきゅうがしたかったんだ」


 浜田は泉の誕生日を初めて知った。小さい頃から遊んでいるがまだそのときは誕生日というものをただプレゼントがもらえる日というように理解していたので、お互いに祝うという行為をしたことはなかったのだ。

 浜田は自分の手を差し出すと泉の手と繋いだ。泉の手はとても冷たくて浜田の心に罪悪感が積もった。それでも泉が笑ってくれたので気持ちがぽかぽかと温かくなっていった。
 泉の手にボールが握られているのに気付くと、浜田は玄関から置きっぱなしのグローブを取ってきて、泉の手を引きそのまま外に出た。

 勢い良く外に飛び出すと泉の誕生日を祝うために、泉の願いを叶えることにした。

 「いずみ、キャッチボールしようぜ!」
「うん!」
 
 浜田が走り出すと泉も一緒に走り出した。泉が泉の手には余る大きさのグローブを持っているのを見て、浜田はあのグローブが泉にぴったりになるまでずっと泉とキャッチボールがしたいと思った。
 
 「いずみ、これからもずっとキャッチボールしような」

 浜田がそういうと泉は浜田に近寄ってきて、耳元でこっそり呟いた。それを聞いて浜田は何故か真っ赤になってしまった。泉を見ると泉も真っ赤だ。二人はお互いの顔を見て笑い合いながら公園へと向かっていった。


 『いままででいちばんうれしいたんじょうびプレゼントだ』





 泉誕小説第一弾です!いつもよりちょっと短め?ハマイズにもこんな頃があったらいいな〜って感じで書きました。泉が捏造だよ・・・!浜田もだけど。泉の誕生日なのに・・・。
浜田が五歳で泉が五歳になったくらいの年頃だと思っていただければ・・・。

2006.11.11
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