▼何処かへ消えた声
全て無理だったのだと諦めるのは簡単で、泣きたいくらいに空ろだった。手放した花ははらはらと崩れるどころか俺の存在を忘れたかのようにしゃんと咲いている。嗚呼、出来るならば君を手放したくは無かった。けれど俺の弱さでは君を傷付けることはできても包むことなど出来るはずが無い。全て無理だったのだ。全てが俺には重すぎたのだ。慰められるのは自分しかいなくて、裏切った君に乞うことなど不可能だった。君にしかこの傷は癒せないのに。
「浜田先輩・・・?」
君に見つかってしまった。それもその筈、君の家の前だからだ。少しでも声が聞きたかったんだ。莫迦だろう?
さあ思う存分なじってくれ、あざけって、さげすんで、この世の汚濁でも見るような目で見てくれなければ・・・・・・、俺は立ち直れない。こんな弱いものと関わったことを後悔しているだろう。いや、きっと君のことだから全て許してくれるのだろう。 俺はなんてずるい人間なんだ。乞う資格など無いといっておきながら、君を目の前にすると許しを欲してしまうんだ。
声は出ない、きっと塞いでしまったんだ。何かが、誰かが、弁明など出来ぬように。君は外に出てきて俺に近付いてきた。泣いてしまいたいのは俺の方なのに、泣いていたのは君だった。きらきらと、きらきらと流れる涙が綺麗で、俺のために流しているのではなく、きっと清らかで潔い君が過去を清算しているのだろうと思った。
「浜田・・・戻って来いよ。皆、心配してんぞ」
胸に何かが詰まったように君が話すから、俺は勘違いしてしまったんだ。きっと。そうでなきゃまた君の側に戻ろうなんて思わなかったにちがいない。君も俺を待ってるんだって、勘違いしてしまったんだ。だってそうだろう?
君の言葉に嘘は無いんだ。君の言ったどんな戯言だって俺は妄信しているんだ。だから君も待っててくれるんだと信じている。
「あと一年。あと一年待ってて。きっと戻るから」
君は気付いただろうか。あと一年すると君と俺は離れ離れになってるかもしれないってこと。君のことだから何もかも知っていて頷いてくれたんだろう。もしかしたら知らなくても受け止めてくれるつもりだったのかもしれない。
俺の言ったことは全て嘘だから。信じてくれなくていい。君が信じるから俺はまだこの場所に戻って来なければならないんだ。
「じゃあな。浜田先輩」
そ
れは別れの言葉だった、全てが俺を解放した。なにもかもから放たれた。しばしの自由、虚構でしかないが、今一番俺に必要なものだった。
決別は簡単だ、離反もまた同じ。だがもう一度君の側に戻るのだ。それは永遠かもしれないし一瞬かもしれない。だけど君のいない春は俺には想像できない。
もう少し、時間を下さい。弱い俺を全て外に押し出して、君の隣は俺のためにあるのだと胸を張って言えるようになるまで。君の咲くさまはまだ俺を近づけてはくれないから。
いつか書くつもりだったからいいんですけど、暗いわこれ。浜田が変態チックだし。浜田の故障後はこんなイメージだ。浜田って約束が好きそうな感じする。あとわりと真面目なんだ。勝手な印象だけど。
2006.11.19