▼はじまり Beginning the story
 あと一週間で浜田の誕生日だ。今年は浜田を驚かせようと最後まで誕生日の計画は秘密にしている。
 まだ学生なので、そんなに高価なものは用意できなかったがプレゼントもあるし、ケーキも母親に頼んでいる。それを浜田の家に持ち込んで祝うつもりだ。
 勿論それまで浜田の前で誕生日のことを口に出すのはタブーだ。三橋や田島にいうことも避けたほうがいい。あいつらのことだから食い物に釣られてふらふらっと言ってしまうことがあるかもしれない。

 とりあえずこのことは浜田の誕生日まで胸の内に秘めておくのだ。我ながら子どもっぽい行動だと思いつつも、浜田の驚く顔を想像するとそんなことはどうでもよくなった。早く一週間が過ぎればいいという想いともう少しこんなときが続いて欲しいと想う自分が交錯して何だか照れくさくなってしまった。

 「泉?顔真っ赤だよ」
 
 隣にいた浜田がビックリして泉に言う。泉は照れ隠しで浜田を殴る。実際力は入ってないのでそんなに痛くはない。浜田は笑いながら痛えよ、泉などと言っている。

 なんでこんなヤツなんかに。なんでこんなヤツなんかを。心の中でそう悪態つきながらも自然と顔が綻んでくる。見ると浜田も笑っていた。浜田といると笑顔になれる。つらいことも悲しいこともあったけど、たぶんこれからもあるだろうけど、隣にいれば許しあえる。そして笑いあえる。そんなヤツは他にいない。

 「なんだ〜?ケンカか?」
「け、けんかっ!?」

 田島と三橋が驚いてこっちを見ている。それもそうだ、傍から見れば殴りあっているようにしか見えない、それも笑いながらだ。さぞ不気味だろと思う。それを想像したらまた二人して笑ってしまった。田島も三橋もあっけに取られている。

 「ずりー!なんだよ俺も混ぜろー」
「・・・や、やめなよ。田島、くん・・・」

 田島がやかましく騒ぎ立てる横で、俺たちはまだ笑っていた。これが毎日の光景、でも俺たちは毎日変化しているから、きっと明日も毎日と違った日になる筈。明日は今日よりも笑えるといい。





2006.12.12


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