▼まだ言えない I can't yet say
 浜田の誕生日まであと六日。浜田は何も気付いて無いみたいだ。それはそれで安心するのだが、少しむっとする。俺の変化にくらい気付けよバカ浜田。矛盾しているがそれが今の心境だ。

 今日は体育がある。外でサッカーをするのだが、もう十二月だ、外に出るなんて寒すぎていけない。男らしくないなと思いつつ上にジャージを着込む。さすがにジャージの下を穿くのは恥かしくてやめた。

 ふと横を見ると浜田が余りの寒さに廊下に出られなくなっていた。よく見ると上も下もジャージ完全装備だ。たった一歳年上なだけなのにこの差は一体何なんだ。田島にいたってはまだ半袖半ズボンなのに。全く情けないことこの上ない。

 「浜田ー。行くぞ」
「あっ、待ってよ泉」

 おたおたと教室を出てきた浜田が廊下の寒さに凍りつく。こんな調子じゃ外になんて一生出られないに違いない。浜田なんかは置いていってすたすたと昇降口を目指す。少し経つと浜田が横に来て靴を取っていた。靴は冷えていて温められていた上履きが懐かしく思えた。

 ぴと、手に何か冷たいものが触れた。それは泉の手をぎゅうと握って、己の体温を上げようとする。浜田の手はとても冷たかった。手の平はそこまでではないが指先が凍ったように冷たいのだ。

 「泉の手温けえな」
「ちょ、触ってんじゃねえよ」

 浜田の無骨な手が泉の小さな手を捕らえて離さない。他のヤツもいるのに何考えてんだ、このスケベ男が。それでもなすがままにされているのは、こうして手を繋いでいることが嬉しいからだ。

 「校庭までだぞ」
「うん。分かった」

 本当に分かっているのかどうか、定かではないが、まだ繋いでいたいと思ったのは泉も同じだ。だから、まだこのままで。





2006.12.13
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