▼しあわせな日 Happy day
浜田の誕生日まであと三日。今日は土曜日で学校は休みだから、浜田が自分の誕生日に気付いたのかどうなのかは分からない。あの調子じゃ気付きそうも無いけどな。休日とはいっても野球部に休みなんかあるはずもなく、今日も弁当持参で一日中練習だ。今は丁度休憩中で、だれてきた気持ちを切り替えようと軽いストレッチなんかをやっている。
「おーい。誰かマシン運ぶの手伝ってくれ」
花井が皆に呼びかけると栄口や西広などの良心的なヤツらが手伝いに行く。花井もそんなもん休憩終わってから出せばいいのになと思いながらも、運ぶのを邪魔している田島を追い払いに行く。
「泉、サンキュ」
「おう」
朝方かなり大変な練習をこなしているにも関わらず、動き足りないらしい田島はうろちょろと走り回っては、他の部員達に迷惑をかけている。
「田島。いい加減にしろ」
「へへっ」
泉が田島を捕獲しようと追い掛け回していると田島の前方に人影が現れた。突然現れた人影は前方不注意な田島に運悪くぶつかってしまった。いてててと立ち上がったその人はなんと、今日会うことは無いと思っていた浜田良郎その人であった。
「浜田!なんでここにいんだよ」
「いや・・・。なんとなく、なんだけどな」
今日はもう顔を見れないだろうと思っていたから尚更驚いた。田島に謝らせようと思って見ると、田島はもう安全圏に逃げてしまっていた。
「田島がぶつかって悪かったな」
「別にいいよ。それより、起こしてくれない?自力じゃ起きれないみたい」
情けないヤツ。そう思いながらも泉は浜田に手を差し出す。浜田はその手を掴んで起き上がると、泉に向かっていった。
「待っててもいい?」
好きにすればいい。そう返そうと思ったけれど口が貝のように閉じてしまって何も言えなかった。だから頷きだけで返事をしたけれど、浜田のことだから目ざとくこの顔が赤いことに気付いたかもしれない。
時々あんたをとても好きになる。いつもは情けないくせに、不意に俺の死角を攻めるんだ。バカ浜田、あんたなんかそこで凍死してろ。
2006.12.16