▼あなたに聞きたいことがある
さよならを告げなかった。でもそれを後悔していない。さよならなんかするもんか、何度でも追いかけてやる、逃げるなんて許さねえ。あいつは多分わかってないけど、でも気付いてはいるかもしれない。あいつはそんなやつだから。俺は一つ年上で近所に住んでる浜田良郎という、情けない男に恋をしていた。男同士なんて気持ち悪いと思われるのかもしれないが、というより最初は俺もそう思ったが、まだ浜田への気持ちがなんなのか分からなかったころに、恋という名前を与えたとたんそれまでもやもやしていた気持ちがすっとほどけていった。
俺は自分でも不思議なくらい俺が浜田を好きなことを受け入れられた。だからといって浜田に告白をするとか、それとなくそういう気持ちをほのめかすようなことはせず、ただ恋をする前と変わらない関係を続けていった。
浜田と俺は固い絆で結ばれている、そう思っていたから、浜田の腕のことが分かったときにはショックだった。心の中で浜田のことを罵倒した。幻滅して、浜田のことを信じられないと思ったりもした。浜田はそんな俺の気持ちも知らずに、残り少ない中学校生活をだらだらと過ごしていた。
「バカじゃねーの。腕壊す前に言えよ。無理して、気付いたら手遅れになったなんて笑えねえぞ」
「うん、そうだね」
「じゃ、何で相談しなかったんだよ。親とか監督とか、・・・俺とか」
口に出した瞬間、虚しさが溢れてきた。浜田は、俺のことを信頼してなかったのか・・・?そんな思いが渦を巻いた。悲しかった。通じない思いが。涙は流さなかったけれど、目はいつもより水っぽかったし、鼻にも刺激がつんときた。
「ごめん」
浜田はそれだけ言った。俺はそのまま教室を出た。謝って欲しかったわけじゃないのに、それ以外与えてもらうものがなかった。俺が欲しかったのは言葉じゃなかった。浜田も分かってただろうと思うけど、でも謝る以外はしてくれなかった。悔しいという思いと、もういいという諦めが対立して、壊れそうだった。
あっという間に三年生は卒業していった。浜田との関係はあれ以来冷め切ってしまった。お互い元に戻す機会を見つけられなかった。それでもなぜか浜田への恋心は無くならなかった。理由は分からなかったけれど、無くしたいとも思わなかった。
浜田が卒業して、俺が受験する番になって唐突にその理由が知りたくなった。初めて自分で自分の進路を決める段階で、指針となったのはそれだった。だから浜田と同じ高校を選んだ。もし浜田と会って浜田にもう一度裏切られたらそれでその恋は終わりにすればいい。俺は悩むことは好きじゃない。だから単純にそう決めた。
高校に入学して初めて教室に入ったときの驚きは、それまでの人生の中で最大の驚きだった。再会は覚悟していたけれど、それは意図してのもので、偶然なんて考えてなかった。浜田も相当驚いているみたいだ。俺は意を決して話しかけた。
「これからよろしくな。浜田」
「・・・っ、よろしく。泉」
俺達はまた始まった。
結局俺の恋は報われるのだけれど、それはもう少し後の話。
まだまだ試行錯誤しながら書いてます。ちなみにとあるお方のために書きました。サイトを閉鎖なされたので長い間お疲れ様です&これからも頑張ってくださいってことで。うまく感謝の気持ちを表せなくて残念です。
2007.4.22