▼女の童
元親が姫若子というパラレル設定です。
苦手な方は閲覧をお控え下さい。



 元就は色屋の中にいた。女子(おなご)を買うつもりなど毛頭もなかったのだが、店先に座っている小さな女の童(めのわらわ)に心引かれて入ってしまったのだ。女の童はこちらをちろりと見て微笑むとまた糸遊びに夢中になっている。

 「これはこれは毛利の大殿。何か御用ですかな」
「あの女の童を我に譲れ」
 
 慣れぬ場所に入り込んでしまったことと、もともとの性格の所為で不遜な物言いになる。別にそのような言い方でも相手は何も疑問に思うまいが、元就はそれを気にしていた。

 「何とあの子を。流石毛利様あの子は長曾我部のもので御座い。将来は必ずや美しい女人になるでしょう」
「・・・長曾我部の者か。何故ここに」

 一般に長曾我部は美人が多いとされている。なので色屋なども必死で長曾我部の女を集めようとするのだが、何故か長曾我部の人口は少なく各地に女が何人か居るだけだ。
 長曾我部の出身地は四国という辺境の地で、そこには長曾我部の男も居るらしいのだがいかんせん海の向こうのことなので伝わりにくい。その長曾我部が何故安芸のこんな色屋に居るのかと思うと不思議だ。

 「あっしが懇意にしている船頭がおりましてな、先日その男がいきなり預けてきたので御座います。その男がただで長曾我部をくれると言うので貰ったのですわ」
「そうか」

 店主も詳しくは知らないらしい。黙って勘定を済ませると表の童をちょいちょいと指で呼ぶ。女の童はあどけないしぐさでこちらを見る。元就が近付くときょとんとした表情で元就を見上げた。元就は女の童の前でしゃがみ、童女の目線と自分の目線が会う位置で話しかける。

 「そなた、我に付いて来い」
「あなただれ?」

 女の童は不安そうに店のほうをちらちらと見ている。知らない人間にいきなり付いて来いなどと言われたら不安になるのも当然だ。

 「ああ、我の名は毛利元就。郡山城の城主だ」
「もとなり。じょ、うしゅ?」

 女の童は城主という言葉を知らないらしい。見たところもう五歳は過ぎているような感じだが、そういったことを知る機会が無かったのかもしれない。

 「そうだ」
「じょうしゅってなに。どこにつれていくの?」
「城主とは城の主のこと。我はお前をわが城に迎えるつもりだ」

 勿論養子にする訳ではなくただの側女(そばめ)として使えさせようと思っている。まあまだこんな子供だから始めの一年や二年は使い物にならないだろうが、もともと気まぐれで求めたものなので期待はしていない。

 「おしろ・・・?わかった!あなたひめのおうじさまでしょ?」

 女の童は城という物が何かは分かっているらしいが、何か決定的に間違っている。どうやら自分を城に連れて行く人は皇子だと思っているらしい。元就は子供らしい無邪気なさまよと思い、立ち上がって童女を抱えた。

 「ああ、我がそなたの皇子ぞ」
「やっぱり!ひめはこれからおうじのひめになるのね」

 嬉しそうにはしゃぐ女の童を抱えたまま従者の待っている小路に向かう。童女の髪が日輪の光を反射してきらきらと光るのを見て、元就はこの女の童の髪色が銀色をしていることに気が付いた。よく見ると童女の目も片方が銀で片方が金だ。やはり長曾我部の者であるのだと妙に実感する。
 
 何故この童が元就の目に入ったのかは、元就自身も良く分かっていない。ただ、女の童の無邪気な様を見ているとこの者は我が引き取るべき者だったのだと確信する。
 今はただこの童にわが城を見せてやりたいということだけを考えていた。





 完璧にパラレルもいいところ・・・。ちなみに舞台は戦国とはちょっと違うのかな。とりあえず長曾我部家は戦国大名じゃないです。一度やってみたかったんです。毛利が女を買う話っていうか姫若子を買う話が。

2006.11.07
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