▼近付いて遠くなる
 がちゃがちゃと元親が何かをいじる音がする。それ以外はほとんど無音の部屋の中でがちゃがちゃと言う音だけが響くのである。
 大体発明なら自国ですれば良いものを。元就のきちんと片付いた部屋の中で、そこら中にばらっと広がっている工具や木切れはとても見れたものではない。

 「長曾我部、我の部屋を汚すでないぞ」
「んー。分かった」

 再三注意しても返ってくるのは生返事ばかり、その上失敗した部品は八つ当たりで遠くに飛ばすので元親の周りだけでなく、部屋全体が雑然として見える。

 元就は筆を止め、部屋を見渡した。すると長曾我部の背中が意外と近くにあり、少し驚いてしまった。長曾我部は発明に熱中しているのか、元就から見られていることに全く気付かない。

 「長曾我部」
「んー」

 元就が呼びかけると気の抜けた返事が返ってきた。間延びした声に苛立ちを感じたが、そんな細かいことをいちいち言っていたらきりがないので気にしない。

 「何を作っておるのだ」

 元親が手に持っているのは丸く切った木の板と、長い棒と短い棒そして細くて長い棒、あとはたくさんの歯車だ。それで何を発明しようというのか。

 元親は少し逡巡して、説明を始めた。

 「これはな、時を計る機械を作ってんだよ」

 戯言か、元就はそう思った。時とはすなわち目には見えねども、日々積み重なっているもので、それは遥か昔の頃より存在したのだという。そんなだいそれたものをこの男は自らの作る物差しで計ろうと言うのか。

 「長曾我部、貴様・・・」
「分かってるって」

 気でも狂わせたかと続けようとした言葉が元親に遮られてしまった。

 「時を俺のような存在が計っていいものだとは思ってないさ。ただやってみたかっただけだ」

 そういうと元親はまたがちゃがちゃという音を立てながら組み立て始めた。

 「できた」

 元就が仕事に戻って今日の責務を終わらせていると、後ろから悲鳴のような歓喜の声が上がった。どうやら時を計る機械とやらが完成したらしい。

 「長曾我部、見せろ」
「おう」

 元親が片手でぽんと軽く手に乗せたそれは、元就の手には余るほどの大きさで、すこし重い。ぐるぐると細い棒が忙しく回っている。

 「これで何が分かるのだ」

 見たところ先ほどの丸い板の上に三本の棒並べられているだけのように見える。ただ、一番細い棒と長い棒は動いているけれど。

 「だから時間を計るんだって言ってるだろ。それ以外何があるってんだよ」

 元親が毒突くが、元就は時を計ると言う摩訶不思議な機械に見入っていた。

 ぐるりと細い棒が一周すると、長い棒が少し動く。するとまた細い棒が一周して長い棒が少し動く。それをずっと繰り返し繰り返ししていると、先より少し短い棒が動いた気がする。
 元親はまた別の発明に取り掛かっているようだ。もうこちらを向いていない。元就は視線をまた機械に戻した。

 そういえばこの様に機械然としたものではないが、元就の城にも日時計がある。良く見ると少し似ていないこともなかった。
 差し当たりこの短い棒が日輪と言ったところか。ではこの目まぐるしく動く細い棒は元親だ。元親はいつ見ても忙しそうにしている、たまにこちらに遊びに来たときも仕事をしていることがほとんどだ。元就も忙しくはあるのだが元親ほど大変ではない。

 「それではこのどっち付かずな棒は我か」
 
 ぼそりと呟きが漏れた。元親がこちらを向いたが首を振るとまた作業に没頭した。ぐるぐると際限なく棒は回り続ける。

 細い棒が短い棒を追い越し、そして長い棒を追い越していく。それの繰り返しだ。まるで元親が日輪や元就に関係せずに暴れているようだった。近付いて遠くなる、見る間に細い棒と長い棒の間がどんどん広がっていく。

 「長曾我部」
「何だ」

 聞こえまいと思って発した小さな呼びかけに、返事が返ってきたからか、それとも短い言葉の中で何かを思ったからか、元就は言おうとも思ってなかった言葉を口にしていた。


 「我を追い越すな。ずっと・・・」

 ・・・傍に居ろ。

 口に出来なかった言葉はどうやら元親に届いたらしく、元就が一番気に入っている笑顔で頷いた。





 なんのことやら意味が分かりませんね。うーん、なんでもかんでも元親と自分にたとえてしまう元就と一人が寂しい元就を書きたかったのですが、これじゃ伝わりらないよ・・・。

2006.12.01
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