▼サンタの定義
 とある寒い冬の日、四国の城で珍しく公務に励んでいると廊下から規則正しい足音が聞こえてきた。そんな音をたてるヤツは一人しか知らないが、それでもその人物が四国を訪れるなど稀なことだったので、部屋に入ってきた元就を見て酷く驚いた。どうやら元親が驚いたのが心外だったらしく、不満げな顔をしている。
 
 「よお、元就」
「ふん・・・」

 こうなると元就は返事をしてくれないばかりか顔も見せようとしない。困ったものだと呆れながらも世話を焼いてしまうあたり俺も相当重病だ。家臣が出してくれた茶を勧めながらそう思った。

 ふとみると元就の手には何か紙が握られている。よくみるとそれは先日元親が元就に送った手紙だ。なぜ四国に来るのにその手紙を持って来たのかと疑問に思っていると、元就が少し機嫌を直したのか、茶を手につけた。

 それでもまだこちらを向かずにいるところは相変わらずだと笑うしかない。元就は元親に背を向けたまま茶をすすり菓子を食べている。用件は何なのだと問い詰めるようなことは野暮だ。このままじっと待つことが最良の策であることを元親は知っていた。

 「元親」

 遂に元就が口を開いた。けれど安心してはいけないここから先が綱渡りだ。これから先一度でも元就の癇に障るようなことを言ってしまったら、元就はすぐに帰ってしまうだろう。久しぶりの逢瀬をそんなことにはしたくない。

 「この手紙に書いてあるさんたとは何者だ」
「へ・・・」

 そういえば伊達から珍しい話を聞いたからと書いたかもしれない。よく分からないがさんたという善人が子供達に贈り物を与えるという殊勝な話で、見ず知らずの人間によくそんなことが出来るもんだと感心した覚えがある。

 「何者かって言われてもな・・・」
「この者は何故全ての子供達に贈り物を与えることが出来るのだ。我には理解できぬ」

 そうかもしれない、幼い頃周りの大人に酷い目に合わされ、憎しみを感じながらもそいつらを理解できた元就だからこそ、ただただ善行を働く者の気持ちが分かり難いのだろう。

 「たぶん・・・」

 上手く言葉に出来るかは分からなかったが、伊達に初めてさんたの話を聞いた時にも思ったことを口にする。元就はいつものように冷たい目で元親を見据えている。

 「さんたにとって一番大切なものが子供達だったんじゃねえか」

 元就が顔を歪ませる。ああやはり、元親はまた元就が嫌悪の表情を見てそう思った。多分理解できなかったものが理解しなくていいものに変わってしまったのだろう。元親は凍ってしまった空気をどうしようかと、気怠げに考えていた。

 「我は全ての子供を大切に思うことなどできぬ」

 元就は真剣にそう言った。元親はそんな元就を見てとても愛おしく感じた。全て子供を大切に思うことなど、元親にだって無理だし、この日本の何処を探したって見つかりはしないと思う。他人の子供など大切に思えなくて当たり前なのだ、それを元就は自分がさも至らないかのようにいう。時々元就は誰よりも善人になる。それは元就が冷酷であろうと望むからだろう。頼りなげな口が紡ぐそんな音に、元親は惹かれたのだ。

 「俺にとって一番大切なものは元就だぜ」

 唐突にそんなことを言ってしまった。また機嫌を損ねるだろうと元就の方を伺うが、元就は顔色さえ変えていなかった。ほっと胸をなでおろすが、それはそれで少し傷つくというものだ。元親は内心の落胆を隠せない。そんな元親を見て元就が笑った。めったにあげない笑い声に驚いて見つめると、元就は急に不機嫌そうな表情になった。

 「我はものではない。それに我は貴様など大切には思っておらんぞ」

 勿論信じない。不機嫌なときの元就の言葉は反対の意味に受け取るのが正しいからだ。つまり元就の一番大切なものは元親だということだ。こみあげてくる笑みをとめられずにいると元就の顔が一層不機嫌になる。だがこの幸せな気持ちは止め処なく溢れてくる。だから思わず、伊達から聞いた祝いの言葉を口にする。意味は分からないが、今日の日にぴったりな言葉だった。

 「メリー・クリスマス」





 というわけで元就にサンタって何だと言わせたかっただけの文でした。元就、サンタ信じてたらいいのに。んでうっかりサンタに書いた手紙を元親に見られて、願い事が「元親と仲良くなれますように」とかだったらいいのに!!

2006.12.24
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