▼夢でしか会えない
元親が学生で、元就が元親の夢に出てくる精霊っていう謎な設定のパロです。 

 この頃不思議なものが夢に現れる。いわゆる何かの精の類であるらしく、透き通っていて軽やかだ。その精霊は夢の中で会ったときいつも不機嫌そうな顔をしている。確か端麗な容姿をしていたはずだが、それのせいで台無しだと思っていた。

 ある晩、またその精霊に会った。そのときそいつがとても苦しそうな表情をしていたから、俺は何を思ったのかその精霊を抱きしめていた。勿論その精霊は必死で抵抗していた。だが少しすると、その矮躯では俺の体を押し返すのは不可能だと悟ったのか大人しくなった。

 「どうしたんだ。言ってみろよ」
「だ、誰がお前なぞに」

 素直じゃない。それは以前から知っていたその精霊の性格であったから、もう気にも留めなかった。この精霊は見かけ通り壊れそうなくせして強がる。だから時々弱音を吐かせないと倒れてしまうだろう。

 「んなこと言わねえでさ、相談しろ。な」
「・・・・・・」

 見ると精霊ははらはらと泣いていた。静かに、嗚咽すら立てずに。まるで目だけが体の各部との交信をやめたかのように、ただ泪だけが溢れていた。

 俺は今さっきよりも少しだけ腕に力を込めて、精霊の頼りなげな体が消えてしまわぬよう縛りつけた。もう少しこうしていよう。泪の生温さもなぜかいやにならなかった。



 この頃朝起きることが嫌いになってしまった。別に朝が苦手なわけではないのだが、起きるのが惜しいと思う理由が一つあった。

 「長曾我部?」
「う・・・ん、何だあ?毛利」
「長曾我部、わしを誰と間違えている」

 低い、予想外の声に慌てて飛び起きる。見ると国語の織田が横に居た。俺は必死で弁解した。結果、特別課題を出されてしまった。授業が終わると悪友の伊達が近付いてきた。

 「Hi元親。なにやってんだよ」
「うるせー」
「それでさ、毛利って誰だ、さっき言ってただろ?」

 流石、しっかり聞かれてしまっていた。伊達にならば話してもいいと思うのだが、どう説明したらよいのかが分からないのだ。

 「政宗、お前さ。精霊とかって信じる?」
「What?」
「いや、何でもねえ。毛利ってのは母方のいとこ」
「ふーん。そうか」

 伊達はまだ納得してなさそうな顔だったが、もうこのことに関しての追及はやめたらしい。話はすぐ別の話題へと変わった。

 伊達に話そうとしたこと、そして俺が朝起きたくなくなった理由、それはどちらも最近見る夢に関係していた。

 俺が眠ると夢に小さな精霊が現れる。始めは自分はこんなに幼稚な夢を見るのかと驚いて、酷く滅入った気分になったが、今は違う。むしろ夢を見なかった日など、一日中そのことが気になってしまって何も手につかないのだ。まあ、夢に精霊が出てきた日もそうたいして変わらないのだが。

 俺は性懲りもなく授業中にまた、あの小さな生き物のことを考えていた。意地っ張りなところも、生真面目なところも全て愛しくて仕方がない。はやく会いたい、そう思って教科書の間に頭をうずめた。



 ああ、今日もこの夢の中か。床に入って気付いたらまた、いつもと変わらない妙に非現実的な世界があった。この世界の端々は妙にはっきりとしていなくて、時々落ち着かない気分になる。これは夢の中なのだから当たり前ともいえることだが。

 辺りを見渡すとあいつはまだ来ていなかった。まあそれはよくあることで、いつの間にか横に居るのだ。今日はまだかと思い、世界の端を目を凝らしてみていると後ろからあいつの声が聞こえた。

 「長曾我部。今日も来たのか」
「ああ。元気にしてたか」
「・・・いつもの通りだ」
「そうか、それはよかった」

 なんてことない普通の会話をしていても、目の前に佇む身の丈が俺よりも遥かに小さなことで、不意にこいつは確かに人ではないのだと思い知る。

 「この前学校で寝ぼけてお前の名前呼んじまってよ。先公に怒られたあげく課題まで出されたんだぜ」
「お前は莫迦だな。寝ぼけるとは如何にも長曾我部らしいが」

 この精霊はいつも俺のことを名字で呼ぶ。下の名で呼ぶなと言った覚えはないのだが、何故か絶対に下の名は使わないのだ。それに遠慮をしているわけではないが、俺も精霊の名を呼べずにいた。夢の中では名字すら口に出せないのだ。

 「なあ・・・」
「何だ」
「いや、何でもねえ」
「そうか」

 どうして名を呼んでくれないのか。俺が言えた事ではないのだが気になる。けれど精霊のその静謐な横顔を見ただけでその気持ちは萎んでしまった。どうしても聞かなくてはならないようなことだとは思えなくなったのだ。

 「・・・一つ、いいか」
「お、おう」

精霊の方から話しかけてきた。ぐちゃぐちゃと物を考えていたので、遠慮がちにかけられた言葉に強く頷いてやることができなかった。

 「なぜ、お前は我の名を呼ばぬのだ」
 
 気付かれていた、最初に思ったのはそんなことだった。思えば何故この人の機微に聡いこの生き物がこのことに気付かないと思っていたことのほうが不思議だ。だが何故と聞かれてもあいにく具体的な答えは持ち合わせていない。

 「別に呼びたくないのならそれでも良いのだ」

 そう寂しげに言う精霊に、俺はとっさに精霊の名を口にしていた。

 「元就」

 精霊は酷く驚いた顔をしていた。名を呼んだ瞬間、何かが変わったような気がした。それは突然で、何なのかさっぱり分からなかったが、それでもどうやら良い変化のようだった。





拍手のお礼に使用していた文章です。
謎な現代パロです。ちなみにオチはまだ考えていません・・・。
続けたくなったら続けます、ごめんなさい。

2007.10.30
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