▼ドキドキは君から(おお振り田花)
むい、シャーペンが頬に食い込んだ。花井は痛いと感じ、目を覚ました。午後の授業は眠たくて困る。教師の声が遠くなったり近くなったりして、気付くと目を瞑っているのだ。成績が悪いと部活に支障が出ることは、十分解っているが自然の摂理には逆らえない。あと十五分、あと十分と、目線が時計と黒板との間を行き来していると、いつの間にか授業が終わっていた。
これから部活だと、大分目覚めてきた神経が花井に伝える。早く部室に行かないと、部活が始まらない。焦る気を抑えながら、早々に帰り支度を済ませると部室に向かった。
どたばたと、暴れている音がする。しまった、田島のことを忘れていた。朝も暴れていたから気が済んだだろうと油断したのがいけなかった。がちゃと扉を開けると、どこから持ってきたのか、シーツを被った人間がずらりと並んでいた。
「トリックオアトリート!」
うわっとなだれ込んで来るシーツおばけ達が次々にお菓子を要求してくる。花井は呼吸すら出来ない状況に辟易していた。おそらく田島の提案であろうこれにどう対処すればいいのか。逡巡しているうちに、シーツおばけ達と花井の距離が零に等しくなっていく。
「ちょっと待てお前ら!何してんだよ。・・・っちょ、待てやめろよ」
するとシーツおばけの内の一番端の一人がシーツを脱いだ。一番やる気の無い阿部だ。するとその隣に居たおばけもシーツを脱いだ、苦笑気味の栄口が言った。
「ごめん、ごめん。田島がやってみようっていうもんだからさ・・・」
「ふん、だから下らないって言ったんだ」
「・・・阿部、悪かった。んで、田島は・・・?」
花井がそう聞くと、部室内の雰囲気がぴしと固まった。・・・何だ?この雰囲気。聞いちゃいけないことを聞いたのか?皆の目線がある一点に向かっている。花井がその目線を辿っていくと行き着いたのは田島のロッカーだ。ははん、ここに隠れてるんだな。さっさとこれ終わらせて部活しねーと。花井はずかずかとロッカーに近付くと、力任せに扉を引っ張った。
「おい田島!出て来い!」
と、次の瞬間花井の唇に柔らかい物が触れた。見ると田島が満足気な笑顔でこちらを向いている。次に目に入ったのが栄口の気の毒そうな表情、あと阿部の無関心な顔も。・・・何が起こった?ええと、確か俺が扉を開けて、田島が出てきたってとこはいいんだ。ん?いや、ちょっと待った、確かその前に何か・・・。
「へへ。花井の唇、ゲンミツにもらったぞー」
「・・・!!」
田島の発言が最悪の事態を肯定する。顔が火照って、動悸が激しくなってくる。田島のやつ、何てことしてくれてんだ!うわあ、どうしよう、どうしよう・・・。とりあえず誤魔化そう。うん、それがいいぞ。花井は自分自身と折り合いをつけると、すっくと立ち上がって号令をかけた。
「皆、部活始めっぞ。さっさと着替えてグラウンドにでろー」
「うぃーす」
とりあえず、場を有耶無耶に終わらせて、花井自身も着替える。横で田島がにまにま笑ってくるが無視だ。部内公認でも恥ずかしいものは恥ずかしい。花井は照れと怒りが混ざったような不思議な感覚にとりつかれていた。
花井が着替え終わって外に出ると田島が待っていた。
「花井!なぁいまさっきドキドキした?」
「はぁ?」
何を聞いてくるのかと思えばそんなこと。さっきの詫びも反省も何もなしで、花井は田島の無神経さに怒鳴りそうになったが、かろうじて抑えこむ。そんな花井の気持ちも知らずに田島は、笑顔全開で告白する。
「俺さ、いまさっきすげードキドキしたんだ。花井が驚くかなって、ずーっと待ってたんだけど、なかなか来ないし、来たら来たで俺のほうがドキドキして・・・、花井にキスすることだけはできたからいいんだけどさ。だから花井もドキドキしててくれたらいいな・・・って、意味わかんねーか」
花井は呆気に取られていた。そんなことのためにあんなことを、と思うと田島に怒りをぶつけたくなったが、なぜか花井はそうしなかった。・・・俺って頭おかしいんじゃないか?田島に対して今一瞬、凄く嬉しいって思っちまった。やっぱおかしいよな・・・。
田島は花井の反応を見ると機嫌上々で皆の方に向かって行った。花井は慌てて後を追った。後ろから見ると花井の耳が部室にいた時よりも赤くなっていた。
Happy Halloween For You.
タジハナ書きました。初です。初でこんな意味不明な小説でいいんだろうか・・・。とりあえず花井の可愛さをアピールしたつもりです。田島様は天然攻めだぞ!頑張れ花井!
2006.10.29