グルメ中央卸売市場の競りで賑わうメインストリートに、六つ星ホテル「ホテルグルメ」の最上階レストランの料理長を務める小松の姿があった。
今日はトリコの紹介で知り合った卸売商の十夢から電話をもらい、目当ての食材を買い付けに来たのだ。
「どうだ小僧、こいつは特殊なノッキング法でないと生きたまま卸せないんだぜ。」
そう言いながら十夢は目の前の食材を、どうだと言わんばかりに小松の前に差し出した。
「ふわああ〜〜〜、これが夜来鳥ですかあ。鳥類にしては珍しく夜にしか活動しない鳥で、しかも神経節が一匹一匹違うために特殊なノッキング法でしか生きたまま捕獲できないんですよね?」
目をキラキラさせながら食材を見つめる小松に、十夢は笑いながらそうだと答える。
「こいつは今日たまたま市場に出てな、つうか捕獲した美食屋がうちに直接卸に来てくれてな。で、小僧がこいつを欲しがってたのを思い出して連絡したって訳だ。」
「うわあ!ありがとうございますッ!!」
目当ての食材を目の前にしてこの上もなく幸せそうな笑顔を浮かべていた小松だったが、何かに気づいたように文字通り萎むようにその笑顔が消えて行った。
「どうした小僧?」
「あ、あの……夜来鳥のノッキング法って確か特許がありましたよね?しかも乱獲を防ぐために特許料がすごく高いって聞いてます。その……あまり高いと僕のお給料では……」
「あ?今日の買い付けはホテル関係じゃないのか?」
「いえ、今日の買い付けはプライベートです。実はホテルへは今が旬の夜来鳥の企画を出してはいるんですが、まだ許可が下りてなくって……でも待ちきれなくって……あの、小分け売りとかしていただけますか?」
「ははははは、なるほどな。だったら心配はいらねーよ。こいつを卸してくれた美食屋ってのが……
「小松君。」
十夢が美食屋の名前を口にしようかという、絶妙なタイミングで後ろから声をかけられる。
その覚えのある、女性でなくとも聞き惚れるようなバリトンボイスに小松は驚きながらも嬉しそうに振り返った。
「ココさん?!うわッ!やっぱりココさんだあッ!!お久しぶりですッ!!」
小松が振り向けば、そこには四天王の一人ココが、何故か凌手を広げて屈んでいる。
(ん?何だ??)
ココの行動に一瞬何をしているのか分からなかった十夢だが、小松の行動を見て我目を疑った。
「ココさんッ!」
まるでそれが当り前のように、小松は両手を広げたココの腕の中に飛び込んだのだ。
「えッ?!」
ココも心得たもので、腕の中に飛び込んできた小松をそのまま抱き上げて自分の目線の先に小松の顔を持ってくる。
「やあ小松君、久しぶりだね。最近連絡をくれないからまた懲りずにトリコとハントに出かけてるんだと思っていたよ。」
「ココさん……ああ、このチクリと感じる物言いはやっぱりココさんだッ!最近はハントじゃなくて仕事してますよッ!今日だって仕事に使おうと思ってた食材が入荷したとトムさんから連絡が来たので、休みを利用して来たんですから。」
「そうだったんだ。で、その食材って?」
「お、おう、これだ。先だってあんたが卸してくれた夜来鳥だよ。」
十夢はとりあえず、当り前のように抱きつ抱かれつつな二人と、その二人を見ようと野次馬が壁のように十夢の店に押しかけている現実を無かった事にしようと脳内会議で決定した。
「え?この食材ってココさんが卸されたんですか?」
「うん、毎年この夜来鳥が旬になるこの時期は、市場からもせっつかれてるから卸にくるんだ。で、小松君のお目当ても夜来鳥?」
「はいッ!今度ホテルの企画を上げているんですが、その前にどうしても一度調理してみたくなって……十夢さんから連絡をもらったんです。で、今は値段の交渉中だった訳です。」
「そういう事なら……十夢さん。小松君に一羽丸ごと売ってあげてください。」
小松と話していたココがトムに話を振った。
「おう、卸した本人がそう言うならな。俺としても美味く調理してくれる料理人に売れるんならいいぜッ!」
「え?それはありがたいんですが……この鳥は希少種なのはもちろんですが、ノッキング特許料がとても高いんですね?だから一羽丸ごとは僕のお給料では……その……」
小松がもじもじと拱いていると、ココはにっこりと笑い、十夢は何故が大笑いをした。
「え?ええ?何ですか?」
二人が笑う理由が分からず小松は自分が何か変なことを言ったのかとおどおどしてしまう。
「心配しなくてもいいぜ小僧。その特許を取得してるのが、何を隠そうお前の目の前の美食屋だよ。」
「……えええ〜〜〜ッ!ほ、本当ですかココさん!?」
「そうなんだ。僕が僕自身に特許料を払うはずもないから、特許料を抜いて、ついでに大まけに卸しておいたから、小松君でも大丈夫だと思うよ。」
「ほ、本当ですかッ!うわ〜〜嬉しいですッ!ありがとうございますココさんッ!それにしてもすごいですね〜!ノッキングの特許を取っているなんて!」
「そうでもないよ。僕の特許なんてちょっとだけだし。何なら今度教えてあげるよ。ノッキング法。」
「ええ〜〜ッ!?いいんですかッ!?それって一緒にハントに連れてっていただけるって事ですよね?」
「もちろんvそうそう、ハンドホースとかチーズチーターのノッキング法も僕特許持ってるから、今度教えてあげるよ。二つとももうすぐシーズンだし。」
「うわッ!うわッ!う、嬉しすぎて僕泣けてきちゃいますう〜〜ッ!是非ご一緒させて下さいッ!ご指導お願いしますッ!!」
「どういたしまして。今日お休みでしょ?この後僕とお茶でもしない?夜来鳥は十夢さんにグルメケースに詰めてもらって、帰りに取りに来ればいいから。いいですよね?十夢さん。」
そう言われ十夢はぶんぶんと首を振るしかない。
「十夢さんすいませんがよろしくお願いします。」
ココはそのまま小松を抱きながら、小松も抱かれながら大通りを行く違和感など微塵も感じずに、十夢の店をあとにした。
「……つうか夜来鳥の特許料ってべらぼーに高いはずだよな……それにココの年間の特許使用料だけでも軽く億はいってるはずだよな……」
十夢は卸売という職業柄、各美食屋等が持っている特許や特殊技能に詳しいが、小松は料理人である。
食材についての知識は豊富だが、それらに付随する営利や権利の事に及ぶとあまり詳しくないようだ。
「それを、かる〜いノリで教えちまうたあ……この場合ココがすごいのか、小僧がすごいのか……いや、やっぱり小僧か、さすが四天王キラー……」


このワールドキッチンにおいて実しやかに流れるある噂がある。
それは、難攻不落、IGOの幹部クラスが束でかかっても中々思い通りには動かない、あの四天王を手玉に取る人間が現れたと。
通称四天王キラー。
何ともネーミングセンスゼロな呼称だが、これ以上にかの人物を現す言葉が見つからないのも事実。
「また、市場がにぎわうなあ……」
別の意味で。

そして四天王キラーと、そんな彼に陥落させられた四天王の一人が、ワールドキッチンでデートをしていたと噂されるのであった。




おっちねーーーーッ!!
いや、やはり基本は押さえておくべきかと……
ただみんなの前でいちゃこらしてる二人が書きたかっただけです……
※プラウザバックプリーズ