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小さな部屋に男と女がいる。
部屋は薄暗く少し湿気っぽい。
男は女に膝枕されている。
女は男の耳を耳かきで掃除している。
男は問いかける。
「どうしたの?」
それに対し女は短く聞き返す。
「なにが?」
男は気持ちよさそうな顔をして言う。
「いや、珍しいなと思って・・・」
女は意味が解らないという風にまた短く聞く。
「だから、何が?」
男はちょっと痛そうな顔をしながら答える。
「君がこんなに優しくしてくれる事がさ。」
「・・・そう?」
「そうだよ。だって、いつもはこんな事してくれないじゃないか。」
男はカレンダーを見る。
「今日って何かあったっけ?」
女もカレンダーを見る。
「何かって?」
「いや、だから今日は何か特別な日だったかなって。」
女はしばらく考える。
「いえ、今日は別に特別な事は無かったと思いますけど・・・」
「なら、どうして?」
「私、そんなに貴方に特別な事した?」
「してる。十分しているよ。今日の夕食は僕の好きなエビフライだったしお風呂で背中も流してくれた。それに、今。膝枕をして耳掃除してくれている。」
少しの間。
開けっ放しの窓から夜の冷たい風が入ってきた。
風は寂しい笑いを残して去った。
「ねぇ。今、幸せ?」
「・・・え?」
「幸せ?」
「・・あ、あぁ、幸せさ。とても幸せ。」
「・・・良かった・・」
「どうしてそんな事を聞くんだい?」
「・・・明日、貴方は死ぬ。」
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