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上司が自分の机にお茶を持って来た女性を刺した。
私はドサッという女性の倒れる音の後にその事実に気付いた。
上司はナイフを持っている。
そのナイフからは血がポタポタと垂れている。
アニメやゲームで見る様な綺麗な赤では無い。
黒く重々しい赤。
その一滴一滴が確かに命の源なのだと感じさせる様な存在感があった。
私は頭の中が真っ白になった。
文字の通り真っ白だ。
白かった意識が覚醒し、気付いた時には私は上司に詰め寄っていた。
「何してるんだ!あんたはっ!!」
上司は怪訝な顔をし、「普通」に答える。
「彼女の歩き方が気に入らなかったんだ。」
私は言葉の意味が解らなかった。
私は暫く呆然としていた。
その間、床で苦しんでいる女性は同僚が引きずっていき巨大なシュレッダーで処理した。

処理?

私は同僚を見た。
同僚は特別驚く訳でも無くいつも通りの「普通」な顔で処理をしていた。
もう一人のベテランパートのおばちゃんはめんどくさそうな顔をしつつも「普通」に床に付いた血を拭いていた。
気が付いたら怒鳴っていた。
「何してるんだよ!!お前たち馬鹿かっ!?人が刺されてるんだぞ!!なんでシュレッダーにかけてるんだ?死ぬだろ。ってか死んでしまったじゃないか!すぐに止血すれば助かったかもしれないだろ!ってか、殺人だぞお前!!おばちゃんもなんで掃除なんかしてるんだ!まず、警察だろ!!110番しろよっ!なんで、そんなに普通なんだよ!!お前もお前もお前もお前も全部異常なんだよ!!」
場が静まり返った。
全員が冷たい目で私を見ている。

やめろ。
やめろ、そんな目で私を見るな。
私は間違っていない。
正しいはずだろ!
何故、解らない!

上司がイラついているのが目に見えて解る。
そこで、同僚が私を庇う様に前に出て上司に言う。
「まぁまぁ、勘弁してやって下さい。こいつ変わってるんですって。結構、噂になっていると思うんですけどね。こいつの行いの数々。ここはその広い御心で目を瞑ってあげて下さいよ。」
上司は同僚の言葉を聞き私の方を見た。
「まぁ、確かに彼が変わっているとは聞いている。君、次からは気を付けるように。」
私が返事出来ずにいると同僚が私をフォローして上司から離れた場所に連れていく。

違う。
なんだか違う。
とっても違う。

私は同僚を突き飛ばし上司の元へ走る。
上司の持っていたナイフを奪い取り上司の首にナイフを刺す。

ガプィッ

変な音が鳴った。
ナイフを抜くと辺りに血が飛び散る。

静寂。
混乱。
叫び声。
サイレン。
動くな!!

私は捕まった。

何故だろう?
いつもそうだ。私は違う。皆は正しい。
何故、私は違うんだろう。
何故、私は変わっているのだろう?
本当は正しい事なのに私は変だと言われる。
世界が変わっているというのに私は間違っている。
本当に正しい事とは何なのだろう?
普通であるという事は果たして正しい事なのか?
変わっているという事はそれほどまでにいけない事なのか?
誰が普通で誰が変わっているのだろう?
この世界は正しいのか?

否。

(完)
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