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ニュースでは自分の親兄弟を殺した殺人犯がニヤニヤと笑っていた。
自信の中に嫌悪感が沸いてきた。
どんな親であれ自分を育ててくれた親や共に育った兄弟を殺してヘラヘラしているなんて信じられない。
あれこそ世間の言う異常なのではないだろうか?
近所の人間へのインタビューでも「変わった子だった。」「薄気味悪い感じのする子だった。」等、好き勝手言われている。
結局、世間から見て殺人犯の彼は異常だという事になったのだ。
殺人をしても反省せずヘラヘラ笑っていられる人間は異常なのだ。

その夜、男は家族を殺した。
凶器は包丁。
何処を刺そうか迷った挙句、首を刺した。
ヌルリとした感触が気持ち悪かった。
咽る様な血の匂いに嘔吐しそうになったが堪えた。
弟、父、母という順に殺していった。
呆然とし、気付いた頃には手に付いた血は乾き始めていた。
舐めると自分のとは、また、一味違う血の味がした。
美しい程に静かな夜の闇。
その中に微かに響くいつもと変わらぬ虫達の鳴き声。
この家の中だけが異界に変わった。
いままで、世話になり、いままで、共に生きてきた人間を僅か10分位の間に…いや、正確にはもっと短い時間だったのだろう。
その僅かな時間に自分と20余年共に生きてきた者を殺したのだ。
平然としてられるはずが無かった。
慟哭し、自らの行いに恐怖した。
何を…何て事をしているのだ。
すぐに警察に電話した。
何と言ったかは覚えていない。
ただ、すぐにサイレンの音が聞こえ、気付いた時には何処か解らない場所にいた。
牢獄という表現がしっくり来るだろう。
後悔の念と失ったモノの大きさを悔いる程に感じた。
それなのに、つい、笑みがこぼれた。
何故なら、自分は異常じゃ無かったのだ。
こんなに後悔し、泣いた。
そんな、私が異常なはずが無い。
私は人間として普通な考え方が出来ている。
私は間違っていない。
自分に今までに無かった確固たる自信が沸き上がった。
影にならずとも自分は人間として生きていける。
それが、例え、こんな牢獄の中だとしても私は人間なんだ!

男は全ての罪を認め、人間になった5年後、死刑になった。

(完)
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