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男はパソコンの前に座り、ひたすらにキーボードを打ち続ける。
カタコトカタコト。
パソコンの横には彼がいつも飲んでいる缶コーヒー。
彼はそれを一口飲んで微笑んだ。
「やはり、良いねぇ。世界を描くというのは…」
微笑んだ男の表情は恍惚にも似たものがある。
男のパソコンには文字が沢山書かれていた。

『起きると隣に見知らぬ女が眠っていた。
俺はやっちまった。と思った。
前の日の事を必死で思い出そうとしたが記憶が無い。
そういえば、昨日は飲み会でひたすら飲まされた記憶がある。
…飲まされた記憶がある。というか、飲まされた記憶までしか無い。
こういう時はとても怖く感じるのだ。
一体、何をやっていたのだ。
ん、何だかこそばゆい。
…裸!?
どうやら、自分は一糸も纏わぬ姿で寝ていた様だ。
隣の女も何か寝言を言って寝返りをうった。
…予想はしていたが隣の女も裸だった。
……完全に事後だ。
どうすれば、良い。
何はともあれ、俺はすぐに着替えた。
昨日、何があったかは解らないがこのままというのも拙いだろう。
とりあえず、逃げるわけにもいかない。
なぜなら、此処は俺の家だからだ。
ここがホテルとかであればすぐに逃げる。
当たり前だ。誰だってそうする。
ともかく、形だけは落ち着いているフリをして適当にトーストでも焼いた。
トーストを頬張り改めて女の方を見た。
…誰だ?
全く知らない。
そう言えば何処かで見た気が…在る筈が無い。
傍から見たらかなり落ち着いて見えるだろうが、実際にはトーストの味も解らぬ程に慌てている。
「ん〜。」
!?起きるのか…
ムクリと置き上がった女は自らの状況を確認して俺の方を向いた。
…起きた。どうしよう?
「おはよう。」
女は一言それだけを言い、冷蔵庫の中のお茶を飲み始めた。
裸のままで寛ぐ女は自分の家の如く落ち着いている。
そして、俺の方を向き一言。
「興奮する?」
「しねぇ…」
俺はすぐに答えた。
酔った俺は、何故かこの女を口説いて家に連れ込んだらしい。
酔っているとはいえ大した行動力だ。
普段からその積極性が欲しいと思う。
しかし、連れ込んだは良いが特に何もせず寝たらしい。
それはそれで、少し勿体無い気もしたが、後の事を考えれば後悔は無い。
たった、一夜のうちにすっかり慣れてしまったのか、俺達はその日から暇があれば会うようになっていた。
俺たちは、案外、馬が合って会うたびに何時間も話し込んだ。
そんな俺達の交友は1年位続き、どちらかともなく「結婚しようか…」と言い、結婚する事になった。
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