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人生の要所を呆れる程、簡単に通り過ぎた俺達はどちらかと言うと幸せな日々を送っていた。
仕事はあり、家もある。
金は多くは無いけど生活出来る程度はある。
そして、更に1年位経ったある日、子供が出来たと言われた。
あっという間に生まれた。
俺にとってはあっと言うまでも、あいつにとっては結構長い時間が掛かったのだろう。
生まれた瞬間の俺達の子を見たときの俺の率直な感想は「宇宙人みたい」と間抜けな感想だった。
子供が生まれ5年程経ったある日、家族で旅行に行こうという事になって沖縄にやってきた。
様々な場所を巡った。
そして、今。
色々な場所を見たが何よりも海が綺麗だと思う。
紅い海。
…アカ?
血の様に赤い海。
見ると俺の腹部に赤い血が滲む。
「…なんだ?」
あいつが俺の腹部に包丁を突き刺していたのだ。
俺達の子は首を切断され、小さい体に幾つも傷が出来ていた。
もはや、人としての原型は留めていなかった。
あいつは気味の悪い位、笑顔を歪めて奇声を発している。
「アァッァァァァァァァハハハハァァハア、キモチイイ、キモチイイ!」
そして、自身の身体にも包丁を突き立てていく。
なんとも言えぬ音がする。
これが肉の音なのだと感じる。
交互に俺も刺される。
あいつは先に息絶えた。
意味が解らない。
なんだ?この人生は…
こんな狂った人生なんて存在するのだろうか?
苦しい…
真面目に生きてきたつもりは無いがこんな死に方はあんまりだ。
死にたくない。死にたくない。死にたくないぃぃぃ。
トクトクと溢れる血が止まらない。
痛みと共に命が溢れ出していく。
頭がクラクラとしてきた。
死ぬのは嫌だ…
助けて…
…助けて。
タ…スケ……テ。』

男は狂喜する。
「ハーーーーハッハッハ!バーカバーカ!幸せになれるなんて思ったか。」
身体をユラユラと揺らし自らが打ち込んだ文章を見る。
「誰がハッピーエンドになんてするかよ!死ね死ね死ね死んじまえぇぇぇ!!」
男は机に頭を何回もぶつけた。
やがて、額から一筋の血が流れてくる。
「神だ。俺は神だ。だって、そうだろう?世界を作れるんだから。俺の指先一つでこいつ等の生死が決まるんだからな!!なんだって出来る。」
男は長い髪をかきあげる。
その姿からは自分に酔っている人間特有のナルシズムが感じられる。
「俺が全てを決める。もっと、多くの奴等に不幸を与えてやる。俺は神様なんだからなぁ!次はどんな話を書いてやろうか?そうだ、あの女をズタボロにしてやろうか?ハーハッハッハッハハー!泣かせてやる。跪かせてやる。楽しいだろうなぁ。神様っていうのはこんな気分なのか。素晴らしい。」
次の瞬間、男は炎に包まれた。
男は何事か理解出来ずに悶える。
「なっ!?なんだ、これは!!熱いぃぃぃい!熱い!助けて、タスケテェェェェエ!!許して、誰か!ダレカカカカカカァァァァァ!!!」
男は焼死した。

…私は生きている。
無論、神のつもりは無い。
だとすれば、文章を書き続けている私はこの世界の人間から言うと一体、何者なのだろう?

(完)
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