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「……で、ちょっと、病院に行って症状話したら医者に精神疾患かも知れないって言われたの。」
 はたして、医者の言っている事は合っているのだろうか?人は人の気持ちが解らない。だから、彼女が医者にこういう症状があると話せば医者はそれを信じるしか無くなる。ならば、症状として一番近い精神疾患と診断せざるを得ない。
 だからこそ、私も彼女の言葉を信じるのだ。私は彼女が望みそうな返答をした。
「本当に!大変じゃん。」
 我ながら心の籠っていない返事だった。だが、彼女には関係ない。彼女にとっては自分自身が心を病んでいると言う事実の方が大切なのであって、私達にはそれに同情し、構って欲しいのだろう。と勝手に推測するが本当のところはやはり解らない。
 そんな事を思っていると、店の外を何人かの子供達がはしゃぎながら歩いていた。彼女は私が子供達を見ているのに気付き、自身も子供達を見て言った。
「可愛いねぇ。」
「何が?」
 何が可愛いのか解らず私は彼女に問いかけていた。
「えっ?子供がじゃない。」
 本当に意味が解らない。子供の何処が可愛いと言うのだろう?
「何で?どうして、子供が可愛いの?あんなの将来、大人になっても大半がろくでも無い大人になるんだよ?モンスターペアレント、ヤクザ、うだつの上がらないサラリーマン、詐欺師、飲んだくれの親父、自称精神障害者、挙句の果てにはあんなボロボロの爺さんになってしまうんだよ。」
 そう言って、私は店の端にいる爺さんを指差した。
「ちょっと、あんた、大丈夫?」
 彼女は不安そうな顔をしながら私の顔を覗き込む。
「えっ?何が?全然、大丈夫だけど。ていうか、あんたこそ大丈夫?子供なんかが、可愛いって普通じゃないでしょ。あんなの生かしていても将来、世の中の害になるだけだって。本当、今すぐにでも親と引き離して強制労働でもさせた方がよっぽどこの世の為になるし。あんな、ゴミ共を可愛いとか思うのって本当どうかしてるよ。あ、ごめん、病んでるんだったね。私ったら、空気読めずごめん。」
 彼女は私の事を怒りもせず、何故か私を心配そうな目をして見ている。何故?解らない。そもそも、彼女に心配されるという事なんて無いのだが……彼女は慎重に私に尋ねてきた。
「ねぇ、もしよかったら私の行ってる病院紹介してあげようか?」
 意味が解らない。何?それって、私が病んでいるみたいな感じ?はぁ?病んでいるのはあんたでしょ?私は彼女の意図が解らなくなって尋ねてみた。
「どうして?」
「いや、なんか、疲れが溜まっているのかなって……精神的にも。」
 病んでいる人間に「精神的に大丈夫?」みたいなもの言いをされるという事はどういう事だ?私は心配されている意味が全くもって解らなくなってきた。彼女が精神的に病んでいてその彼女が私を精神的に大丈夫かと言っているのだったら私は極めて正常だということになるだろう。それに、私は何も病んでなんかいないのだから。
「大丈夫だよ。私は至って正常だよ。」
 私はそう言って彼女に笑って返した。
「……そう。」
「それよりも、あんたこそ人の事を心配している場合じゃないじゃない。精神疾患なんでしょ。私なんかより、あんたよ。あんた。」
「いや、私はもういいの。大丈夫だから。」
 何故?さっきまでは病んでいると言っていたのに今は大丈夫って……一体どういう事だ。彼女は友人だと思っていたのに、嘘を吐いたのか?私に。
「えっと、どういう事?嘘、吐いたの?私に。どうして!!何で嘘なんて吐くの?貴方は病んでいるんでしょ?私、あんたの事、信じてたのに!!クソクソクソクソクソ!」
「何?ちょっと落ち着いて。」
 彼女はそういって心配しているフリをしながら、傍から見たら私をなだめている様に演じる。そんな、彼女が嫌い。私は構わず続けた。
「やっぱり、人間なんて嘘ばっかり。結局あんたも私の事を心の中で馬鹿だなこいつ騙されてやんのとか思ってたんでしょ!酷い!あんたみたいな人間がいるから信じられないの。人間なんて!皆、何考えているか解らない!怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。」
 そして、彼女は私を残していなくなった。
 彼女は精神を病んでいる。結局、私のような正常な人間の話なんて解る筈も無かったのだ。

(完)
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