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冬が終わり春の足音が聞こえる。
まだ、冬の気分でコートを着ているととても暑い。
そんな暖かい日に俺はコートをきてマフラーを巻いていた。
はたから見るとただの馬鹿だ。
仕方無い。
朝、出かけるときは非常に寒かったのだから。
そんな言い訳を自分にしつつ俺は呪文の様な言葉を左の耳から右の耳へと流す。
無駄に暖房の効いた教室から火照った顔で外を見る。
外では木々がお互いの葉を擦り合わせてサヤサヤと囁いている。
空は蒼い。
雲の流れは速い。

大学生活も今年で二年目。
そこそこ友達も出来た。
授業は毎回講師の独り言を聞きに言っているだけで面白くも何とも無い。
夢を追う為に入った大学は俺の期待を裏切り身に付かない授業ゴッコをしてくれる。
今はもう夢など忘れた。
夢も無く毎日をダラダラ生きている。
俺はチラリと時計を見た。
この授業が終わるまで後三分だ。
次の授業は十分出席しているから単位を落とす事は無いだろう。
・・・・・・・次の授業をサボる事は決定した。

サボってどうするかと言うと大体は決まっている。
家に帰る途中にあるゲーセンによって行く。
そして、ゲームをする。
自分のキャラを動かして皆で協力してボスを倒すというオンラインゲームだ。
持ちキャラは魔法使い。
戦士たちの後ろから凄まじい威力の魔法を放つ。
そのゲームをやりながら思う。
昔、俺は魔法使いになりたかったのだと・・・・
そんな昔の自分の夢を思い出し今の自分は鼻で笑う。

「馬鹿だったなぁ。」

子供と言うのはリアルを考えずして夢を見る。
叶うはず無いということすら知らずに夢を追う。
いつか届くと想い幻想する。
そして、リアルを知る。
諦める。
それが人間だ。

ゲーセンで二時間位潰して帰路へつく。
電車に揺られている間に眠っていたようだ。
俺が起きた時にはもう駅に着いていた。
慌てて電車から降りる。

一陣の風が俺の頬を撫でた。
春の甘い香りがした。
俺がリアルを知った時吹いていた風と同じ香り。
リアルに絶望した時優しく包んでくれた風。
風はいつでも俺の心を癒してくれる。
どんな時でも俺の隣にいる風。
こんな優しいモノがあるだろうか?
自分の親でさえ風のように優しくは無い。
今まで付き合ってきた女も自分の事ばかりを語る下らない奴らばっかり。
こんなにも俺の事を優しく受け入れてくれるモノは他に無い。
俺はそんな風を感じながら歩く。
空はもうオレンジ色に染まっている。

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