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家に続く道を歩いていたら目の前に見た事の無い女がいた。
別にそれだけなら何て事も無いのだがその女はクネクネと変な動きをしていた。
きっと、頭がおかしいのだろう。
世も末だなと思いその女を無視して通り過ぎようとする。
するとその女が突然フラフラとぶつかってきた。
明らかにワザとぶつかって来ていた。
流石にムカッとした俺は女に言う。

「なんなんだよ、お前は?」

女は周りをキョロキョロと見渡す。

「お前だよ。お前!」

俺が指を指して言ってやるとやっと女は自分の事だと気付いたようだ。
そして、女は俺の方を見て笑顔で答えた。

「私?私は魔法使いだよ。」

俺はしばらく口を開けてポカンとしていた。
誰がどう見ても間抜けな図だっただろう。
女はニコニコと俺を見つめている。
そして、俺の口からやっと出た言葉は・・・・・

「馬鹿か?お前。」
「馬鹿じゃないよぉ。魔法使いだって。」

女は頬を膨らませて答える。
良く見たらその女はとても綺麗だった。
服は白いワンピースを着ている。
目は丸く大きくてキラキラしている。いつまでも夢を見る子供の目。
髪は黒いロングヘア。
風になびくその髪は夕日が反射してとても綺麗だ。

「どうしたの?」

女は俺の顔を覗き込んで訊ねてきた。
俺は慌てて離れる。

「なんでもねぇよ。」
「変なの。」
「てか、変なのはお前だよ。何が魔法使いだ。頭、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。」
「魔法使いって事は魔法使えるんだろ?」
「使えるよ。」
「なら使ってみろよ。」
「どうして?」
「見てみたいんだよ。」
「いいけど、さっきまで使ってたんだよ。」

そう言って女はクネクネと変な動きをしはじめた。
女はそんな動きをしばらく続けた。

「で、いつになったら魔法を使うんだよ?」
「もう使ってるじゃない?」
「はぁ?」
「ほらほら、コレが魔法だって。」

女は更にクネクネと動く。

「・・・・・・おい、その変な動きが魔法だって言うのか?」
「うん!」

女は自信満々に頷く。
俺は呆れ顔。

「もしかして、魔法って物を爆発させたりするものだと思ってた?」
「ったりめーだろ!普通は誰だってそう思うだろうが。」
「その普通は、間違っているの。本当の魔法って言うのはね体現する事なの。」
「はぁ?」
「解らない?自然を体現する。それが魔法なの。例えばこれは何に見える?」

そう言うと女はまたクネクネと動き出した。
更に手をフヨフヨさせて脚もフラフラと動く。
不思議な感じがした。
リアルに生きる人間から言えば女はただのキチガイだろう。
だが、俺にはそうは見えなかった。
女の動き。それはまるで風のようだった。
どうしてだろう。
俺はただ一言「風」と呟いていた。

「正解!ほら、解るじゃない。」
「ちょっと、待てよ。今のお前が風に見えたのは認める。だけど、それが何なんだよ?」
「いい?今、貴方は私の姿を見て風に見えたんでしょう?」
「あ・・・あぁ、そうだ。」
「って言う事はさっき貴方の前には風がいたの。私が風になって貴方の前にいたの。それはどういうことか解る?」
「・・・・・いや・・・」
「つまり、私は自然現象を自らの力で発生させたのよ。」

そう言って女はまたクネクネと動き出した。
そして、女は風になって俺の頬に触れた。

「今、貴方は風をあびてるの。春の風。甘く優しい春の風。」

俺はただ風をあびた。
そして、風に触れる。

「俺は今風に触れている。」
「そう、貴方は今風に触れている。」

いつでも優しく癒してくれたモノが今目の前にいる。

「お前は魔法使いなんかじゃない。お前は・・・・・・」

風は優しく微笑んだ。
そして、何も言わず両手を広げた。
そんな風が愛しくて俺は風を抱きしめた。
その瞬間、ビュオ!っと大きな風の音がした。

そこには誰も居ない。
ただ、風が吹く。

俺達は永遠の旅に出た。

(完)
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