▼2
彼は急に立ち上がる。
そして、窓の方へ行く。
彼は自分の身長より少し高い位置にある小さな窓を見上げる。
外は夜。
月が見える。
見上げているから窓の下の方に何があるかは見えない。
波の音が聞こえる。
そして、塩の香りがする。

「・・・波の音。ねぇ、君は海を見た事ある?」
「・・・・・」
「どんな形をしているんだろう?きっと、大きくてスピーカーみたいなのが所々に沢山ついているのだろうね。」
「・・・・・」

波の音に混じって人の声が聞こえる。
しかし、しっかりとは聞き取れない。
ただ、複数人いる事だけは分かる。
彼はそれを聞き嫌な顔をする。

「五月蝿いなぁ。・・・・人間って本当に五月蝿いね。まぁ、僕も人間なんだけどね・・・」
「・・・・・」
「皆、死ねば良いのにね。大きい隕石が落ちてきてドッカーン!ってね。」
「・・・・・」
「そうすれば、皆、跡形も無く消えるんだよ。」
「・・・・・」
「塵一つ残さず・・・全てが・・・爽快だよね。」
「・・・・・」
「世界中の母親も世界中の父親も世界中の息子も世界中の娘も全て。」
「・・・・・」
「見てみたいな。皆が一瞬にして消えるところ。」
「・・・・・」

やっぱり少女は答えない。
彼は飽きたように窓から離れた。
そして、彼はさっきまで座っていた場所に座る。
彼は少女をじっと見つめる。

「・・・ねぇ。」
「・・・・・」
「どうして、答えてくれないの?」
「・・・・・」
「僕の事嫌い?」
「・・・・・」
「僕の事好き?」
「・・・・・」
「手・・・繋いで良い?」
「・・・・・」
「・・・繋ぐよ。」
「・・・・・」

彼はそう言って少女の手を握る。
彼は瞳を閉じて少女の手をとおして少女の体温を感じる。

「やっぱり冷たい。・・・・君の手はいつも冷たいね。」
「・・・・・」
「どうしてだろうね?」
「・・・・・」
「君は氷で出来ているの?」
「・・・・・」
「だとしたら僕は何で出来ているのだろう?」
「・・・・・」
「お腹・・・減ったね。」
「・・・・・」
「君は何が食べたい?」
「・・・・・」
「僕は空を食べたい。」
「・・・・・」
「風が冷たいね。」
「・・・・・」
「だけど、温かい。」
「・・・・・」
「君はいつからここにいるの?」
「・・・・・」
「僕はずっと前から・・・いつからかは覚えていない。」
「・・・・・」

彼はすこし眠たそうに目をこすると彼女に向かって言う。

「眠たいね。」
「・・・・・」
「僕は眠たいからもう寝るよ。おやすみ。」
「・・・・・おやすみ。」

彼女から言葉が返ってきた。
彼は目を見開いた。
それまで繋いでいた手を反射的に振りほどく。

そして、絶叫した。

「うわぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!っえあうぅぅうあぁっ!!」

彼は一目散に扉の方に逃げる。
扉を開けようとガチャガチャガチャガチャ。

「っけてぇぇぇええ!!開けてっ!開けてぇぇえ!!」

扉が開く。
彼は扉から飛び出した。
床は無かった。
落ちた。
ずっと下に・・・
落ち続ける。
いつまでも・・・
そして、ずっとずっと下で何かが潰れる音がする。
暗い闇・・・何も見えなくなった。
何も見えないまま彼は眠りについた。


彼は目覚める。
右隣には少女。
彼は辺りを見渡す。
そこは正方形の部屋。
左手には20センチ四方の小さな窓。
正面には頑丈そうな鉄の扉。
彼は落ち着いたように一息吐く。
そして、一言呟いた。

「・・・・また、ここだ。」

(完)
スポンサード リンク