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心は行ってしまった。
夢で見た彼女の元に・・・
彼女は優しく白かった。

ここは牢獄と言う名の天国。
何も考えなくて良い。
誰とも関われないけど関わる必要が無い。
自由が無い代わりに安全が有る。
一人の男がいるだけでがらんどうの牢獄。
灰色のコンクリートの壁。
縦に並んだ鉄格子。
それが外の世界と中の世界を別ける。

独り地面に座る男。
彼はボロボロのシャツにボロボロのズボンを穿いていた。
髪は伸ばしっぱなしだが顔は髭も生えず端整な顔立ちをしていた。
長い髪の間から見える目は綺麗な瑠璃色をしており赤子の瞳の様に何処を見ているか解らない。
ただ、一つだけ言えるのは彼はこの世のモノを見ていない。
どこか遠くに在るモノを見ている。

そこは天国。
常人にとっては地獄だろう。
だが、少なくとも彼にとっては天国。

彼は特に動かず目を閉じる。
昔に一度会ったきりで何万回眠っても再会する事の叶わない彼女を思う。
一日に何回も眠った。
眠たくなくなったら睡眠薬を飲んででも眠った。
十年以上も見ていない彼女に会う為に・・・

果たして今日は会えるのだろうか?
彼女の姿を脳裏に浮かべる。
会ったら何を話そうか。
そんな想いを抱いて彼は眠りに付く。

昔、まだ彼が小さい頃、彼は夢を見た。
そこはステーション。
彼女は白い帽子、白いワンピースに身を包み彼の前にかがんでいた。
今ならきっと彼の方が幾分か背が高いだろう。
だが、その時は小さかった。
彼女がかがんでやっと同じくらいの身長になったのだ。
そして、彼女は白い手で彼の頭を撫でた。
帽子で隠れた顔にかすかに笑みをたたえているのが形の良い口元から見て取れた。
そんな彼女に彼は惚れた。

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