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彼は部屋で椅子に座っていた。
何をするまでも無くただ座っていた。
・・・しとしとしと
雨が降ってきた。
彼はその音が嫌いではない。
開けっ放しの窓から湿気を含んだ風が流れる。
彼は肌にまとわりつくその湿気が嫌いではない。
しとしとしと・・・
雨は静かに降り続ける。
彼は雨の音を聞き湿気た空気を感じながらゆったりと流れる時間が好きだ。
窓の外の景色は灰色。
彼はノートを開けて鉛筆でノートを黒く塗る。
やがて、ノートは鉛筆に塗りつぶされた。
彼はそのノートを見つめる。

「・・・今日の空みたい。」

彼はただ一言呟いて立ち上がる。
そして、部屋を出る。
部屋を出てすぐそこは階段だった。
屋根も無いし壁も無い。
そこで彼は座り込む。

冷たい雨。
ぬるい風。
雨に当たり風に吹かれて彼は待つ。
何を待っているのかは彼にも解らない。
ただ、一人いつまでも待っている。
・・・しとしとしと・・・
彼は瞳を閉じて感じている。
一人の空間を・・・
一人の時間を・・・
そして、あまりの気持ち良さに微笑んだ。
・・・しとしとしと・・ぴちゃ・・しとしとしと・・
何か別の音が聞こえた。
彼は静かに瞳を開ける。
女がたっていた。
白いワンピースに黒く長い髪。
彼女は傘をさしておらず雨にうたれている。
白いワンピースが雨に濡れ彼女の身体に纏わりつく。
黒い髪からは水が滴りなんとも艶かしい雰囲気をかもし出していた。
彼女は彼の方に向けて歩いてくる。

ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・

彼の隣に辿り着くとそこで彼女は腰を下ろした。
彼の隣に座って雨を見つめる。
濁った空から落ちる小さな雫。
それらは飽く事なく降り続ける。
彼はふっと一息ついて一言。

「・・・久しぶり。」
「・・・・・・えぇ。」

彼女は彼の方を少し見て小さな声で答えた。
そしてまた沈黙。
空は太陽を全て灰色の雲で隠している。
地面は降り続ける雨により揺れ続ける。
彼は空を見つめている。
彼女は地面を見つめている。
しとしとしと・・・・
・・しとしとしと・・
・・・・しとしとしと
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