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どれだけの時間が過ぎただろうか、そんな事も分からないほどの時間が経った。
ふと、彼は呟いた。それに、彼女が答える。

「一体・・・・何万粒の雨がこの地に落ちたのだろうか?」
「分からない。・・・だけど、きっと沢山。」
「・・知ってる。沢山だけどどんなくらい沢山なんだろうか?」
「・・・・・それはきっと海の水ほど沢山。」
「そんなにあるのか?」
「知らない・・・」
「・・・・そうか。」

他愛も無い会話。
そして、実に下らない会話。
だけど、二人はどこか楽しそうだった。
次は彼女から話した。彼はそれに答える。

「・・ねぇ、雨って死んだらどうなるか知ってる?」
「知らない。・・・それより雨って生きてるの?」
「生きてる。・・・そして、死んだら川になるの。」
「・・・・だったら川が死んだら何になるのさ?」
「死んだ川は海になり海が死んだら雲になる。そして、また雨になるの。」
「・・・そうか・・・なら、僕達は死んだら何になるのだろうね?」
「知らない。・・・・何になりたい?」
「え?・・・僕かい?」
「えぇ、貴方は死んだら何になりたい?」
「・・・・う〜ん、考えた事ないな。」
「・・・・・そう?」
「・・やっぱり人間かな。・・って言うか人間として生きている姿しか想像できないや。」
「・・・・・そう。」
「・・君は何になりたいの?」

彼女は彼に聞き返されて少し考えてから答えた。

「私は・・・・・あめ・・」

彼は彼女の答えを聞いて目を丸くさせた。
そして、少し驚いたような声で答えた。

「・・雨になりたいのか?・・・変わってるね。」
「・・・そう?・・・・私・・変わってる?」
「あぁ、変わってるよ。だって、雨になって何が楽しいのさ?落ちてきて死んで何が楽しいの?」
「違うよ・・・・私がなりたいのは・・あめ・・・・」
「だから、コレだろ?」

彼はそういって空から永遠に降り続ける雨に手をかざし彼女に聞く。
彼女は首を振り否定した。

「違うよ・・・・私がなりたいのは・・・甘い・・あめ・・・このあめは人に嫌われる・・・」
「甘い・・・・・あぁ、飴玉のことか。」
「そう・・・それ。」
「・・・・だけど、どちらにしたって変わってるや。」
「・・・・そう?・・どうして?」
「だって、飴玉って舐められて溶けて終わりだろ?」
「・・・・・そう・・・・だけど、舐めた人はほんの一瞬だけ幸せになれる。」
「・・・そうだね。確かに飴玉を舐めた時は幸せだ。」
「だから・・・・あめに・・なりたい。」
「そう・・・か。・・・この雨は嫌いなのか?」
「嫌い・・・・皆が嫌っているから・・洗濯物が干せないとか雨の日は外に行きたく無いとか言っているから・・・だから・・・私も嫌い。」

そして、沈黙。
彼は雨が生まれる空を見つめる。
彼女は雨が死ぬ地面を見つめる。
空も地面も灰色。
それ以外の色が存在しないかの様な世界。
しとしとしと・・・
遠くの方の空に雨の終わりが見えてきた。
彼女が立ち上がる。
彼は動かず座っている。

「・・・・・そろそろ、行くね。」
「・・・あぁ。」

彼は静かに瞳を閉じる。
雨は降り続ける。
・・・しとしとしと・・ぴちゃ・・しとしとしと・・・
彼は瞳を開けた。
そこに、彼女はいない。
雨はもうすぐ終わる。
彼は部屋に入った。
そして、椅子に座る。
机の上にあったあめを包み紙をとり口に含む。
口の中であめを転がしながら窓の外をみる。
外の景色を見ながら彼は呟いた。

「雨・・・・好きなんだけどな。」

もうすぐで雨が止む。
彼は口の中で飴を転がす。
コロコロコロコロ

(完)
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