▼1
そこは部屋。
部屋の真ん中にはコタツがありそれ以外は床が見えない程に色々なモノが散らかっている。
そんな部屋にコタツに入り向かい合っている男女が二人。
男はラーメンを食べていた。
女は素麺を食べていた。
男は汗を噴出してそれでも美味しそうにラーメンを食べる。
女は無表情にハイペースで素麺を食べる。
「・・・ちょっと」
女が言うと男は口の中のラーメンを飲み込んで答える。
「ん、なんだい?」
「氷取ってくれません?」
男は周りを見渡してみる。
「氷なんて何処にあるんだい?」
女は呆れ果てて答える。
「何言ってるんですか。氷なんて冷凍庫の中にあるに決まっているじゃありませんか。」
「あぁ、なるほどね。そうだね、氷なんだからね。」
男は手を伸ばして冷凍庫の扉を開けて氷を取り出す。そしてそれを女に手渡す。
「はい。」
女はお礼も言わずそれを受け取る。
そして氷を素麺に乗せた。
「・・・何か無いの?」
男が一言聞いた。
「何か・・・とは?」
女は聞き返す。
「いや、氷取ってあげたんだからありがとうの一言くらい無いのかな?って。」
「言って欲しいのですか?」
「別にそういう訳では無いんだけど・・・・」
「なら、良いじゃありませんか。」
「・・・は?」
「良いじゃありませんか。別に私にありがとうと言われたい訳でも無いのでしょう?」
「いや・・・そうなんだけどね。普通は一言ありがとうとか言わないかな?」
「知りません。さっき私はありがとうと言わなかった。だったら私の普通は言わない事が普通なのだと思いますけど。」
「あぁ、うん、そうだね。ごめん変なこと言って。」
「いえ、解ってくれればいいのです。」
女は床に落ちていたフォークを拾い素麺を食べる。
男も何故かフォークを持ってラーメンを食べ始めた。
「それにしても今日は暑いですね。」
女は汗一つ流さずに言う。
男は汗だくの顔を女の方に向け答える。
「そうかい?今日は涼しいと思うんだけど・・・」
しばし、沈黙。
スポンサード リンク