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男は散らかった部屋を見回して時計を探す。
女は部屋の隅に落ちている振り子時計を指差す。
「あぁ、何で言ってくれなかったんだ。」
「だって、聞かなかったじゃないですか。」
「いや、聞かなかったけどね。・・・あぁ、もう一時間も過ぎているじゃないか。」
「大変ですね。」
「大変ですねって本当に君は・・・・はう!」
「どうしたのですか?」
「・・・お腹が・・・痛い。」
「それは、困りましたね。」
「きっと、さっきのネギだ。」
「どうして?」
「君がネギを丸ごと食べさせるからだよ!」
「貴方が食べたんでしょ。」
「いや、食べたけどね・・・・あぁぁあ、そんな事はどうでも良い。時間が無い。お腹が痛い。時間が無い。お腹が痛い。どうすれば良い。どうなってしまうんだ。」
「さて、どうなってしまうのでしょうね。」
「あぁあ、君のせいだからな!全て君のせいだからな。」
「はい、私のせいですが何か?貴方が私だから貴方のせいとも言えますけどね。」
「何を言っているんだ!意味が解らない。」
「はい、私にも解りません。」
女はそう言って足もとに落ちている包丁を拾い男に突き刺した。
男は変な声を出して死んだ。
女は男の死体を横目でチラリと見てから部屋をでた。
テレビにはノイズ、聞こえる音もノイズの音だけ。
部屋の電気が消えた。
アナウンサーがテレビに映る。
「今日未明、何処かの部屋の良く分からない男性が良く分からない女性に刺殺されたもようです。警察ではこれを自殺と考えて捜査を進めています。なお、女の行方は依然分りません。ただ、今のところ流れ逝く途中の何処かに居るような気がします。それでは皆様また明日。流れ逝く世界より第一発見者がお送り致しました。」

そして、テレビが消えた。
世界は静寂と闇に包まれた。

(完)
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