▼1
私は丘の上に立っている。
詳しくは解らないがもう、四百年近く立っている。
ただ、暇では無い。
毎日、風や鳥達と話をするのが楽しみだ。
今日の天気や季節の移り変わり等、他愛も無い話。
ただ、そんな私にも少し悩みがある。
人間が私の前で手を合わせて願うのです。

いつからだろうか?

ずっと昔・・・
「この木は願いを叶えてくれる木だぞ。」と誰かが言った。
それ以来、私の前で自分勝手に願い事を私にぶつけていく人間が増えていった。
「母の病気を治して下さい」と私の前で願う。
すると、しばらくしたら治る。
願いが叶う。
そんなモノは人間の勝手な思い込み。
私の前で願って病気が治った。
そんなものは放っておいたら治る病気だった。
ただ、それだけの話だ。
きっと、そういう話が肥大化して願いの叶う木の私は出来たのだろう。
正直、迷惑だ。
叶えられる願いなら叶えて上げたい。
だが、私に叶えられない願いを語られても私にとっては苦痛でしかない。
そんな事が繰り返される日々。

今は冬でよく雪が降るからあまり人は来ない。
だけど、冬ももうすぐ終わる。
春の心地良い気温は好きだ。
いつも、春が来るたびについはしゃいでしまう。
ただ、人間も良く来る。
それだけが嫌だ・・・

今日は雪が降っている。
こんな寒い日なのに人間が来た。
彼女は私の前で手を合わせて願う。
「お願いします。どうか彼を助けてあげて下さい。」
・・・意味が解らない。
どうやら、彼が窮地に立たされているらしいが要領を得ない。
何から助ければ良いのかも解らないし私に出来る事なのかも解らない。
いや、私が中身を理解出来ない時点で彼女の願いを叶える事なんて出来ない。
だから、私は謝った。
(ごめんなさい・・・私にその願いは叶えられません。)
彼女には私の声なんて聞こえない。
彼女は願いを言って満足したのかそのまま帰った。
起きていても寒いだけだし少し眠ろうか。
そう思った矢先にまた人間が来た。
次は男だ。
彼は私の前で手を合わせる。
そして、言う。
「この木がいつまでも立っていますように・・・」
私は一言。
(・・・・・頑張ります。)と答えた。
私が答えた瞬間。
彼は不思議そうに顔を上げた。
そして、満面の笑みで私に言った。
「おう!頑張れよ!」
そう言うと彼は私に手を振り去っていった。
聞こえたのだろうか?
だが、そんな事は関係ない。
彼に聞こえていようと聞こえていまいと私にはここに立ち続ける理由が出来た。
スポンサード リンク