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彼が去って一カ月程経ったある日。
スーツを着た男がやってきた。
男は私や周りの木々をみて手にしたファイルに何かを書き込んでいた。
そして、何も願わないまま去っていった。
さらに一週間程経ったある日。
よく知った人間達がやってきた。
その先頭には私に立っていてほしいと言った彼がいた。
彼等はブルーシートを引いて私の前で座り込んだ。
私には意味が解らなかった。
だが、少しするとそれが何を意味するか私にも解った。
作業着を着た男達が大きな機材を持ってやってきたのだ。
男達は私を切ろうとしているのだ。
そして、彼等は私を守るために来てくれたのだ。
両者は激しく言い合って時間が過ぎた。
その日からそれが毎日続いた。

そして、一年後の冬。

とうとう、私を切ろうとしていた人間は諦めた。
私はここに立っていて良いようだ。
初めて嬉しいと感じた。
初めて人に感謝をした。
とても温かい気持ちになれたそんな冬。
あたりは雪に覆われ白く輝いていた。

彼は私を見て言った。
「よく頑張ったな。また今度、綺麗な花でも見せてくれよ。」
彼は振り返り街へと歩き出す。
そんな彼の頬に優しく触れるものが一つ。
彼は再び願いの叶う木を見た。
そこには非常に幻想的な光景が在った。

雪に覆われ白い大地。
そこに堂々と立つ木。
それはいつも通りの光景。
ただ、一つを除いて。
木は花を咲かせていた。
淡い桜色の花。
白い世界にただ一つの桜色。
彼女がただ一つ叶えた願い。
それは、綺麗な花。

彼は微笑んだ。
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