もう、あと十数分で今年も終わってしまう。 今年はいつになく、だらしなくなってゆく肉体に大量の飴と優しいムチをあたえながら一年を突っ走った気がしております。ライブに足を運んでくれた皆さんや、お世話になった皆さんに心より感謝しております。 来年は唄にギターに精進して行くつもりであります。 とにもかくにもありがとうございました。よいお年を〜!! |
2013/12/31(Tue) 23:46
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もう、あと十数分で今年も終わってしまう。 今年はいつになく、だらしなくなってゆく肉体に大量の飴と優しいムチをあたえながら一年を突っ走った気がしております。ライブに足を運んでくれた皆さんや、お世話になった皆さんに心より感謝しております。 来年は唄にギターに精進して行くつもりであります。 とにもかくにもありがとうございました。よいお年を〜!! |
〜髄膜炎のブルース 前編〜 全長は小さめのスケボーくらいはあるだろうか、今まで見たことのない鳥が対岸からこちらを睨んでいる。 その日、頬に涙の跡をつけた僕は雨上がりの濁流を見つめていた。いつもなら“何見てんねん!”と石でも投げつけているのだが、その日の僕は、そんな気分にはなれなかった。 どれくらい経ったのだろうか、見たことのない鳥は“ウケケケケケェー”と不気味な鳴き声を残し、西の空へと消えていった。そして対岸には、鳥と入れ代わるように二つ年上のK君がこちらを見て手を振っていた。K君は橋を渡り、僕の方へと近づいてきた。 「何してん?」 「川見てんねん」 「何で泣いてん?」 「………」 涙の理由を言わない僕に対してK君は“ははぁ〜ん”といった表情を浮かべ、 「お前も観たんか…ハクション大魔王の最終回」 「……うん、観た。ほんでめっちゃ泣いた…」 「ミー トゥーや」 「……何て? それ英語?」 「そうや、“ワタシも”ていう意味や」 「K君も泣いたん?!」 「イエス アイ ドゥー!」 「……ホンマに泣いたん?」 「イエース……」 「………………」 K君が何にかぶれているのかは知らないが、暫くすると“グッバイ”と言い、去って行ってしまった。 僕は数十分前、テレビでハクション大魔王の最終回を観て、号泣してしまったのである。昔からそうだった。悲しい時や、つらい時、何か子供の心の許容量をオーバーしてしまった時はどうする事もできずに、ただただ川を見つめるといった行動をとっていた。 そうすると不思議と落ち着きを取り戻す事ができたのである。その日は、K君のわけのわからないテンションも加わり、少し楽になった気がしていた。 それから数日が経ち、金八先生を観ては川を眺め、ドラえもん-のび太と恐竜-を観ては川を眺め、僕は結構忙しい日々を過ごしていた。そんなある日、僕は川沿いの道で白い野良犬と出会った。 子犬でもなく、成犬でもない。生まれてから半年くらいの、やせ細った白い犬だった。そいつは他の野良犬にも虐められ、人間にも邪険にされ、いつもびくびくしていた。たえず頭と尻尾をたれさげた姿は可哀相に思えてならなかった。 家に帰り、家族に話すと 「どっから来た野良や、まぁそのうちええ場所見つけて楽しィに暮らすやろ」 「今、家にクマも居るしな。」 家族は皆、おしなべてドライな事を言う。加えて当時、家ではクマという名の大きな秋田犬を飼っていた事もあり、あの野良犬を飼いたいだなんてとてもじゃないが言える雰囲気ではなかった。 しかし、そんな状況でも、僕の野良犬に対する想いは日に日に強くなる一方だった。 そんなある日、夕食を終えた祖父が僕にこう言った。 「真規ィ、あの犬、捕まえに行くぞォ〜」 どういう風のふきまわしなのか祖父がリードを手に出支度をしている。 捕まえる……保護するではないのかこの場合…。何だか言葉のニュアンスが乱暴な気がするが、しかたがない。僕の祖父は少々パンチがきいていて、一日の内にしらふの時がほとんどない人間である。僕は少々の不安を抱きながらも祖父の後をついていった。 夜になると川沿いの道は小さな街灯がポツリポツリとあるくらいで目が慣れないと歩く事も困難なほど暗い。この暗がりで、あの野良犬を見つける事ができるのだろうか。 ようやく慣れてきた目をこらしながら歩いていると小さな橋にさしかかる。橋の両端には街灯が光り、目の筋肉が一気に緩んだ気がした。 すると“カリッ カリ カリ カリ……”何やらコンクリートを引っ掻くような音が対岸から聞こえる。目をこらすと、相変わらず尻尾をたれさげたあの野良犬がこちらへと歩いてきていた。そして、橋の中程で立ち止まり、怯えた目で僕たちを見ていた。 祖父はポケットからパンの切れ端を取り出すと、その場にしゃがみ込んだ。犬はつねに2、3メートルの距離を保ちながら、こちらを伺っている。祖父は口笛を吹きながらパンを自分の目の前に置いた。どのくらいの時間が経ったのだろう、犬の保っていた距離が次第に縮まっていき、20分程経った頃には祖父の足元でパンを食べていた。よほど腹が空いていたのだろう、小さな身体で勢いよく顎を動かしていた。祖父は持っていたリードを犬の首へ結びつけると「行くぞぉ〜」と僕に促した。 “ガルルゥ……”家に着くやいなや物騒な唸り声が聞こえる。我が家の先輩犬クマが牙をむいて威嚇していた。 「何やコラ新入りッ!お前のその細っい足 食うてまうぞォ!!」 きっとそんな感じの唸り声なのだろう。そして後輩犬である野良犬は自分よりも倍程大きい相手に、すぐさま降伏するのかと思いきや、なんと眉間にしわを作り、“ガルルゥ…”と唸りかえしているではないか。さすがは迷い犬、いくらイジメられているとはいえ、生まれた頃から逞しく一匹で生き抜いてきた犬、見上げた根性である。そして一触即発の空気にもかかわらず祖父は宥める事も止める事もせず、二匹の様子をこれほど面白いものはないといった表情で眺めていた。祖父は張り詰めた空気の中で、闘犬に金でも賭けているかのようなろくでもない笑顔を浮かべている。 そして、二匹の唸り声が重なり、一瞬無音になったその時である。新入りがクマの懐に飛び込んでいった。クマは素早くのけ反るように野良の一牙をかわし、反撃の体制に入る。 そこからは早かった。瞬きする間もなく勝負はついてしまっていた。 “ヴギャンッ”という鳴き声とともにクマの牙は野良の喉笛にガッチリと食い込み、押さえ付けるような形で静止画のように止まっていた。 「まだやるか?降参せえへんかったら牙入れて殺してまうけど、どないする?」 「………すんまへん、僕の負けです。もう堪忍しとくんなはれ」 ほんの数秒の間にこんなやりとりがあったのだろう。野良は腹をクマに向け、小便を流し、降参の意思表示をしていた。 クマは喉笛から牙を外すと犬小屋の方へ悠々と歩いていった。 野生の本能なのか掟なのか、犬は腹を見せた相手にそれ以上の攻撃はしないらしい。 そして、一発でやられてしまった野良はその場で所在無さげに立っている。 「あっかんの〜お前はァ。まぁしゃあないな、倍ほど体おっきい相手やもんのォ」 祖父は野良の頭をポンポンとたたくと犬小屋の横にある棚から古い首輪を取り出した。いつ飼っていた犬の物かはわからないが結構年期の入った青い首輪を野良の首へ巻き付けた。そして、首輪を掴み 「ほれ、お前らこれから仲良うせえよォ〜」 とクマがいる犬小屋へ野良を押し込んだ。 この頃、我が家の犬小屋は代々大型犬ばかり飼っているせいかかなりでかい祖父お手製の小屋で、畳二畳分程の広さがあり、天井も大人が立って歩ける程の高さがあった。 その小屋の中央でクマがデンと寝そべり、野良は端っこで落ち着きのない様子で時折こちらを見ては不安そうな目をぱちくりさせていた。 当時の我が家の掟として犬は家の中に入れるべからず。という決まりがあり、玄関の下足場さえも犬が立ち入ってはならなったのである。今日我が家にきたばかりの野良には少々荒っぽいかもしれないが、早く慣れてもらうためにも気まずい寝床を強いるしかなかった。 祖父は僕に野良犬の名前をつける事を命じ、 「俺ァ今から飲みに行ってくるさかいなァ〜」と 車に乗り、夜の街へと消えていってしまった。 僕は、二匹の事が気になって暫く犬小屋の前でしゃがみ込んでいたのだが、二匹ともそれ以上争う様子もなく、ぎくしゃくしてはいるものの静かな時間が流れていった。 もう大丈夫だと思い、家の中に戻った僕は、野良の名前をああでもない、こうでもないと思案していた。そこへ姉がやってきて「ジョリーでええんちゃん」と提案してくれた。 その当時、テレビで“名犬ジョリー”というアニメがやっていて、主人公の白い大きな犬の名前がジョリーといい、えらく賢い。姉は賢くなるかもという期待をこめての名前だと言った。 「うーん…ええねんけど、それにしてもまんまやなァ……」 「ええやん別に一緒でも」 「そやなぁ、ほんだらちょっとだけ変えてジョニーにしょう!うん、それがいい決定〜!!」 何とまぁ安易な決め方かもしれないが、姉も含め我が家の人間はあまり深く物事を考えない。なんにせよめでたく野良の名前が決定した。 次の日、二匹の事が気になり、早くに目覚めた僕は、布団から出るなりすぐに犬小屋に向かった。しかし、僕の取り越し苦労だったようで犬小屋ではお互いのお尻を匂いあったり、じゃれあったりしている二匹の姿が目に入った。どうやら上手くやっていけそうで一安心である。 微笑ましい二匹の様子を眺めていると、何やらクマがある方向をチラチラと見ている。何かが気になっているようでクマの見つめる先に目をやると、なるほど合点がいった。そこは本来なら祖父の車が停まっている場所なのである。そして、今は停まっているはずの車がない。祖父は昨夜飲みに出かけてからまだ帰ってきていないらしい。かといってクマが “ご主人様の帰りが遅いな…何かあったのだろうか………”などと思うわけはない。先程も述べたが祖父は少々パンチのきいた人である。 飲みに出かけると朝帰りどころか三日後の昼間に酒の臭いをぷんぷんさせて帰宅したりする。それゆえ一晩帰ってこない事など日常茶飯事なのである。では、何故にクマがソワソワと落ち着かない様子なのかというと、祖父が深酒をした後は、概ね機嫌が悪い。クマは何に怒りだすかわからない祖父の地雷に怯えているのだろう。 そして、落ち着きのない様子を察してかクマが車庫の方を見るたびにジョニーも同じように視線を向けていた。二匹は車庫に目をやっては顔を寄せ合ったり、臭いを嗅ぎあったりと僕には何かしらのコミニケーションをとっているように見えた。 「センパイ、どないしはりましたん?さっきからソワソワして…」 「………うーん…多分ご機嫌悪いやろなァ……」 「へぇッ?誰が?」 「………いや……まぁ、お前もこの家に来たんやから教えといたるけどな…、ここのご主人さん、えらい気ままていうか、恐いていうか…何ていうか気ィつけた方がええで……」 「へ!?何がですん?」 「……優しい時は物凄ォ優しいねんけどな、機嫌悪い時とか、ようわからん理由でキレられたりすんねん。俺、何年かここに居るけど、まだキレどころがわからん時もあんねん……」 「…例えば……?」 「ちょっと前もな、便所の方から声するから何やろ思うてたら “おーい、クマよォッ!!帰って来たんかい?よォ!ちゃんとウンコさんしてきたんかィ〜!!” て言うからな“帰ってきましたでェ”言うて玄関の下足場のとこ走っていっただけでやで………」 「…走っていってどないしはりましたん?」 「どないもこないも… “コッラァーっ!!オドレ何処へ入って来てんなィ!!”言うてえらい剣幕で怒りはんねん。」 「せやけど呼んだん向こうですやんか」 「そうや……せやけど入った場所が悪かったんや、どうも俺らは家に入ったらアカンらしいねん。家いうても下足場に片方の前脚入っただけやねんで…」 「せやけど呼んだん向こうですやんか…」 「そんなん関係あらへんねんあの人、俺も最初何がなんやらわからんからこない言うたんや。“いやいや、あんさん今、大きな声で呼ばはったからね……” “何ィ〜!!オドレ誰に口ごたえしとんねん!!”ていうてエライめにあわされたんや。」 「……めちゃくちゃですやんか……」 「そや、めちゃくちゃやねん、あの人。」 「なんぼこっちの言葉わからんいうたかて酷すぎますやんか!!ほんでエライ目ェて何されましたん?」 「聞くな…オレ思い出したない……なんかオレ動悸してきたわ……」 「セ、センパイ…」 「あとな、この小屋の中で絶対ウンコさんしたらアカンで!エライ目にあわされるから…」 「エーッ!!そんなん……僕、朝方、辛抱たまらんようなってしてまいましたよ!! ほら、その隅に」 「……あ〜ア…してしもたァ、ほんでまたちっちゃいウンコさん…一発でお前のんてわかるなァ、おめでとう……」 「おめでとうて……センパイもした事あるんですか?ほんでエライ目ェて、いったい何されるんですか!!」 「聞くな…オレ、鼻乾いてきた…」 「セ、センパイ……」 二匹は落ち着きのない様子で独特のコミニケーションをしばらく続けていたのだが、よけいな気を使いすぎて疲れたのだろう。二匹は、もう何もかも諦めたようにコンクリートの地面に身体をあずけている。 かわいそうになった僕は、小屋の隅のウンコさんをかたずけ、二匹の頭をを撫でてあげた。 そして僕は、家の中に戻り、身仕度をして学校へ向かった。 日に日に強くなる太陽が足どりを重くさせる。梅雨明けを間近に感じたこの日、ジョニーはこの家の一員となり、迷い犬を卒業した。 しかし、この数日後、ジョニーに最大の不幸がふりかかる事などこの時の僕には想像もできなかった。 次回へつづく |
いやいやいやぁ、早いもんで今年も終わりです。2012年は、かなりの体重オーバーをしてしまい、健康面に支障をきたすくらいになってしまいました。そんな重い身体をひきづりながら活動をしてまいりましたが、2013年は、心を入れ替え、ダイエット、音楽制作共に頑張っていこうと思う次第であります。また、ブログでのシリーズ、二級河川の蛍もまだまだ続きます。 そして、今年一年、ライブに足を運んで下さった皆さん、お世話になった皆々様に感謝しながら除夜の鐘の音を心に刻もうと思います。 しかしながら、お正月、とりあえずはお節で一杯、お餅で一杯………ダイエットは四日から…… …何はともあれ、一年、ありがとうございました!! 2013年、引き締まった北條真規に乞御期待!! よろしくお願いしまっす!! 良いお年を!!! |
〜結構サバイバル〜 後編 “パパパンッパパパパァンパァーンッ!!” “ヒュ〜〜〜〜ンッシュィーッ!!” 藪の向こうのヤンキー達は、けたたましい音の爆竹と、どうやらロケット花火も持っているらしく、攻撃性バツグンな音が僕達を震え上がらせていた。 しばらく無言で立ち尽くしていた僕達は、どうにかしなければと頭を悩ましていた。すると、不穏な空気の中 Nちゃんが口を開いた。 「なんかスーッと横切ったらいけるんとちゃうん、なんぼなんでも小学生相手に何かしたりせんやろ」 「うーん………」 僕は不安を拭えないまま もう一度 藪の向こうを覗き込んだ。 すると先ほどの浮世絵君はフレームアウトし、今度はこのクソ暑い中、ダボダボの白いトレーナーをきた奴がフレームインしていた。先程の浮世絵君はフレームイン アウトを繰り返すほど動き回っていたのに対し、白トレーナー君はフレームアウトするどころか動物園のコアラのように動きが遅い。よく見ると、右手の袖口を終始 口にあてている。そして時折、口から袖を外してはニタリと気色の悪い笑顔を覗かせている。 こいつはヤバイ……… 瞳孔は開きっぱなしの前歯ナッシング、ヤッタネお兄ちゃんである。 僕は再びNちゃんのもとへ引き返し 「アカン アカン アカン あっかーん!!ボン中が居てはりますッ。一旦 帰ろッ!!」 「そらアカン!帰ろ!」 僕達は2時間後に再び集合と約束し、一旦 各々の家へと戻った。 これは相手が悪すぎる。しらふの中高生ヤンキーならば いたいけな小学生に対し、そこまで酷い事はしないだろう。せいぜい爆竹を 2、3束ぶつけ、“ウキャキャキャァーッ”と高笑いして喜ぶぐらいで後はお咎めなしということになる可能性は高い。しかし、相手はボンド中毒、昼間からシンナーを吸い、ラリっている不届き者。もしも、あのまま彼らの前を横切っていたならば…… 考えただけでもゾッとするではないか。 以前、僕の友人Y君は、このての人に捕まり、大変な目にあったと涙ぐんでいたことを思い出してしまった。 Y君はその日、近くの野池で釣りをしていた。林に囲まれた野池には魚の他にアヒルなどの水鳥がたくさんいて、運が良かったのか悪かったのか、彼はアヒルの卵を発見してしまう。彼は鶏卵よりもひとまわり大きい薄緑色の卵を眺め、大きな目玉焼きを作るか、はたまた自ら卵を温め母鳥の変わりとなるかを真剣に考えていた。どれくらい思案しただろうか、彼は母親になる決心をして卵を拾い上げた。その時、後方の林がガサガサと音をたてた。振り向くとそこには空き缶を口にくわえたボン中が立っていた。 「お前、そこ動くなよ!」 ボン中は突然、マシンガンを構える格好をして 「ダダダダダァダダダァーンダダダ…………」 とエアー乱射をし始めた。発砲音が30秒程続いただろうか、そして発砲音を止めるやいなや 「アカンッ!弾切れやァッ!!」と叫ぶボン中。 Y君は、その隙に逃げようとしたが 「アカン!動くな!!ダダダァダダダ………」 とまた始まってしまった。そしてまた 「アカンッ!弾切れやッ!!」 どうやらこれでワンセットらしい。後はこのワンセットを何度も繰り返すという地獄のリフレイン状態突入。Y君はリフレイン3回目くらいから恐怖で金縛り状態になり、今までかいた事のない汗が吹き出たという。そして、かれこれリフレイン7回目を越えた頃だっただろうか、ボン中はエアーマシンガン最中に突然咳込み、むせだした。Y君はその瞬間 金縛りが解け、一気に林の中へダッシュした。あとは一度も振り向かず自転車に乗り、逃亡に成功したらしい。 「俺、何かわからんけどあの時、卵かえるんちゃうかと思たわ……」 そう言ったY君の青ざめた顔を思い出して僕は再びゾッとした。 気を取り直すため僕は冷蔵庫の麦茶を飲み、テレビを点けると特捜最前線の再放送がやっていた。画面には素肌に袖なし革ジャンを着た不良がモトクロスバイクに乗って逃走しているシーンが映っていた。 「あぁ〜あ……こんな奴やったら いっこも恐い事ないねんけどなァ……」 僕は独り言を言いながら畳の上に寝転んだ。それから暫く何も考えず、ぼーっと画面を見ていた。ふと気付くと、もうドラマのエンディングが流れている。これはいかん、もうすぐ約束の集合時間になろうとしているではないか。僕は、急いで支度をし、自転車に飛び乗った。猛スピードで走っていると道の途中でNちゃんの笑顔が目に入った。 「真規ィ〜もういけるでェ、あいつら もう居らんかったわァ!!俺 今さっき見てきてん」 「ホンマにッ!!良かったぁ〜、ほな行こかァ」 僕達は晴々とした気持ちで宮さんへと向かった。宮さんへ到着すると、ヤンキー達が捨てていったたくさんの吸い殻に空き缶、ポテロング、パイの実の空き箱など、様々なゴミが散乱していた。 「うわ〜、なんや あいつら…あんな恐いなりして、こんな可愛らしいもん食いやがって!!」 僕達はぶつくさ言いながらも釣りの準備に取り掛かった。 さぁ、相手はウナギである。高鳴る胸を抑えながらの第一投、ザリガニのむき身が水面にポチャリと落ち、ウキが徐々になじんでいく。太陽が夕日に変わる夕まずめ、僕達は釣り師の目になっていた。 餌を打ち始めてから15分は経っただろうか、まだアタリは無い。 これでは らちがあかないとザリガニを小さく刻み、撒き餌を打ちだして数分後、僕の竿がしなった。テグスが水を切り“ピューッ”と音をたてる。大きい…しばらく格闘した末に上がってきたのはウナギではなく、まるまる太ったブラックバスだった。 「何や、バスかぁ〜」 そう、今日の狙いはウナギのみである。僕は針を外し、バスを川へかえしてやった。 それから、一時間半、二人とも釣れるのはブラックバスばかり。日も暮れかかり、いいかげん諦めかけた頃、むこう岸で人の声がした。川辺には若いお父さんと四歳くらいの男の子の親子が立っていた。むこう岸といっても、ここの川幅は、せいぜい5、6メートル。何をしゃべっているかよく聞こえてしまうのである。 「嫌や嫌や嫌やァ〜」 何やら子供がぐずっているようだ。子供の手には小さなおもちゃのバケツが握らており、若いお父さんは諭すようにこう言った。 「もう、家で金魚さん飼われへんねん……ほっといたら死んでしまうやろ、かわいそうやから生まれた場所に帰したろ…な」 しばらくぐずっていた子供も諦めたのか、バケツを手に水辺にしゃがみ込んだ。そして父と子、二人してバケツを傾けた。 「さよなら〜」 父と子は手を振り、遠い目をしていた。 放たれた金魚は三匹くらいいただろうか、朱色に光る美しい身体はこちらの対岸からでもよく見えた。そして金魚はゆっくりと流れの緩い方へと泳いでいく。その時である、大きな魚影が走るのが見えた。 “アカンッ”……思ったのもつかの間、案の定 四方八方から群青色の魚影が金魚達に迫ってゆく。 バコォーンッ!バシュッ!!大きな音と水しぶきがあがり、金魚さんはバケツから放たれてわずか5秒でこの世から居なくなってしまったのである。その魚影の正体とは、そう、先程から僕達のザリガニ撒き餌に寄り集まった、ブラックバスくん達である。 ゴメンよ見ず知らずの親子連れ… そして、あまりにも突然の出来事に泣く事すら出来ず呆然となる息子と、感情表現が誤作動を起こし、半笑い状態の父親…きっと美しい別離をイメージしていたのだろう。それがあんなセンセーショナルな別離になるなんて……… 若いお父さんは息子の肩をそっと抱き、二人は国道の方へ消えていった。 何だか変な空気が漂う中、笑いながらNちゃんが口を開いた。 「アカンて、そら食われるて…あんな目立つ色してんのに」 「お父んタイミング悪いなァ……」 「まぁ…しゃあないな…」 気の毒だがこればかりはしょうがない。弱肉強食の食物連鎖をねじ曲げる事は出来ない。あの息子にたくましく育ってくれと願うほかないのである。 そして、たくましく育った僕達は、今日一日サバイバルに楽しませてくれた川に敬意を表し“ハイ、プレゼント〜ようさん食べやァ!!”と残ったザリガニくんをばらまいた。とうとうウナギの姿は見れなかったが僕達はこれで竿をたたむ事にした。 “ウゥゥーーーーー---” どこかの工場のサイレンを追うように野犬の遠吠えが重なり、異様な響きを奏でる。 辺りはもう暗くなっていた。 次回 二級河川の蛍そのB 〜髄膜炎のブルース〜 乞御期待!! |
〜結構サバイバル〜 前編 「あんた、宮さんの所いったらアカンで!マムシの巣あるさかいに!!」 母がバタバタと洗濯物を取り込みながら叫んでいる。 宮さんとは、この川沿いに奉られてある小さな社の事である。僕の町では、ここを“流れの宮さん”と呼ぶ。この付近の川沿いの道は地道で、目の前にある国道からも鬱蒼と繁った草木で川自体が見えなくなっている。そして、国道の反対側は広い敷地の田畑があり、そのまわりを竹やぶや林が囲んでいる。昼間でも薄暗い、いかにも何か出そうな場所である。 そして、何か出そうなのではなく、本当にいろいろ出るのである。先ほどの母の忠告にあるように本当にマムシのよく出る場所であり、猛毒のスズメバチや虻、水をはった田にはヒル、藪には野犬、竹やぶにはムカデ……と色んな噛むと痛い奴らが勢揃いしている。マムシやスズメバチにいたっては痛いだけでは済まなかったりする。 こんなに危険な生物達と案外頻繁に出会ったりする場所なのである。 しかし、僕はこの日、そんな危険な場所に行く事を決めていた。なぜなら、祖父から耳よりな情報を入手していたからである。 数日前、祖父は犬の散歩でこの場所を訪れた際、目の前の川では中学生が数人で釣りをしていたという。その光景をしばらく眺めていると、にわかに一人の竿がしなった。何が掛かったのだろうと覗き込もうとすると、何やら中学生達がギャーギャー騒ぎ出した。 「何やこれ!!蛇かッ………いや違う…何やこれェ!!」 陸で のたうちまわる細長い生物を見た中学生達はさらに奇声をあげる。 見かねた祖父は、そこへ歩みよった。 「何やこれァ、ウナギやんかィ!兄ちゃんらよう見てみぃッ!!こんなとこにまだ居んねんなァ……」 祖父の指摘に中学生達は落ち着きを取り戻したのか 「ほんまや、ウナギや!デカッ!!」 と奇声が歓声に変わっていった。 しかし、中学生達は、せっかく釣った珍しい獲物を眺め、思案している。この川のウナギなど食えるはずもないし、飼育するにも手にあまると、その場に立ち尽くしていた。 祖父はその姿を見て 「兄ちゃんらこの川を四万十川や思ぅてそれ食べたらええがな…」 と無責任な言葉をかけ、帰ってきたという…… そんな話を聞いてじっとしていられるものかと、僕は祖父に中学生達が何の餌を使っていたか、どんな仕掛けかなど、いろいろ情報を聞き出し、昨日、もうすでに友人のN君と作戦会議は済ましていた。そして今日が作戦決行の日であった。この状況で母の忠告を素直に受け入れるなど健康優良児である僕には絶対にできないのである。 母は後30分ほどでパートに出かける。 僕は上の空で昼食を口に運び、母はもう一度釘をさすように言った。 「わかってんか!!あんた、ちゃんと宿題せな知らんで!夏休みみたいなもん すぐ終わるねんで!!」 「おぅ……わかった…」 僕の生返事とともに母が出支度を始めた。 それから母が出かけるのを見計らい、僕はN君に電話をかけた。 「もしもし、Nちゃん オレオレ、今から出れるわ、あそこの地蔵さんのとこで待ってるわな〜」 僕は用意した たも網を手に自転車へ跨がった。 地蔵さんとは宮さんの場所からはかなり上流へ行った場所であり、そこには小さな地蔵堂がある。そしてその回りには藪と水田が拡がり、マムシこそあまり見かけないが、スズメバチやムカデがたくさん出没する なかなかの場所でもあった。まずはここで祖父の情報にある餌を捕獲するのである。 水田の回りには、1メートル幅程度の水路があり、ここに多く棲息しているザリガニを捕ろうというのである。祖父が言うにはザリガニのむき身を中学生達は使っていたらしい。 地蔵堂の前には、もうNちゃんが来て待っていた。 「真規ィ、遅いぞぉ〜」 「ゴメンゴメン、オカン出てくまで待っとってん」 そして、Nちゃんは不安そうに藪の方へ目をやると 「今日はめっちゃ居んで スズメバチ……」 「マジで…ほんだらMキン連れて来たらよかったなァ」 「あいつ今アカンでスランプやねんて」 「へ??何で?」 Mキンとは僕らより一つ下の奴で、野球のボールは全くもって打てないが、スズメバチなら百発百中で打ち抜くという金属バットの使い方を間違えた奴の事である。 その百発百中の彼が何故スランプなのかと聞くと…… ある日の土曜日、彼はご機嫌で当てもの屋の型抜きに夢中になっていた。すると、“ブーン”と不穏な音がする。彼は音の方に目をやるとこう呟いた。 「なんや、アシナガバチか…」 彼の頭上で一匹のアシナガバチが飛び回っていた。 ハチ殺しの異名をとる彼の事である、いつもハチ界の頂点に君臨するスズメバチを相手にしているわけであるからしてアシナガバチなど三下扱いなのである。 逃げる他の友人達を尻目にテキヤのオジサンにこうも言ったという。 「おっちゃん、ちょっとタンマ、これ見とってや。すぐ終わらすからやァ……」 彼は途中の型抜きをそっと置き、ゆっくりと立ち上がると手元にあったバットを手にした。しかしこのバットがいけなかった。その日は運悪く金属バットではなく、手にしたのはプラスチック製のバットだった。 彼はいつものように構えるとグリップを絞り込み 「キャンと言わしたらァ…」 と呟くやいなや思い切りスイングした。 いつもならここでクリーンヒットし“ホームラン〜”と叫びながら、ヘロヘロのハチにとどめをさしに走るのだが今回は違った。プラスチック製のバットの軽さがタイミングを狂わせ、加えて三下バチだという油断もあったのだろう、バットは空を切り、彼はバランスを崩した。その瞬間すでにハチは彼の顔面に飛び掛かり容赦なく左瞼に針を突き刺していた。 「ギャアァァーッ!!」 事の一部始終を遠巻きに見ていた数人の友人達がすぐさま彼のもとに駆け寄った。 「いけるかッ!!Mキン!!」 「大丈夫かッ!!」 皆、口々に言い寄った。 しかし、皆、大丈夫かと聞きながらも顔は半笑いである。それはそうだろう、あれだけ イキりたおしたあげくの敗北、しかも三下のアシナガバチにである。 テキヤのオジサンも半笑いのまま 「ボク、いけるか、今日はもう帰りィ… よう冷やしや、たぶんめっちゃ腫れるでェ〜」 と言いながら型抜きの景品を片付けだしていた。 自尊心やら何やら色んなものを失ってしまった彼は終始半笑いの友人達に抱えられ、泣きながら家に帰ったという。 スランプの真相を聞いた僕はNちゃんに言った。 「そら、しばらく使いもんならんなァ……あいつ今頃お岩さんみたいなってんちゃうん……蜂ばっかりシバくからバチあたったんや」 「そう、まさにそれ、アカンねんそれ。今あいつにお岩さんとかバチあたったとか言うたら泣きながら殴ってくるらしいでェ!!」 「ふ〜ん、俺 今度言うたろ〜」 僕達はMキンの話をしながらも偵察バチの威嚇をかわし、十数匹のザリガニを捕獲した。 そして、その餌を自転車のカゴに入れると一路 宮さんへと向かった。 しかし、何かいつもと様子が違う…… 宮さんに近付くにつれ、何か“パンパンッ”と爆発音のようなものが近くなってくる。“ヒュルルゥゥー”という音も加わってきた。 「なぁNちゃん、何か嫌な予感せえへん?」 「………するなァ…」 僕達は真正面から宮さんへ行くのを止め、裏の藪からその場の様子を覗く事にした。 「Nちゃん、ちょォ ここで待っといて、俺 コソッと見てくるわ」 僕はNちゃんを藪の入口に待たし、様子を伺いに忍び寄った。 藪の向こうを覗き込むとズバリ予感的中。 そこには、奇声を発しながら爆竹を投げているヤンキーが数人、唾を吐きながらたむろしていた。 藪ごしに覗いているせいかはっきりと状況は掴めないのだが、金髪に紫の浮世絵柄のサマーセーターを着た いかにもな奴が跳びはねているのが見てとれた。 僕は これはヤバイとNちゃんのもとへ引きかえした。 「どうやった?」 「アカン!積木くずしまくってる……」 「やっぱり……」 「どないしょうか…」 そこを通らなければ釣り場には行けない。 僕達はどうしたものかとザリガニを持ったまま立ち尽くしていた。 次回 後編へつづく |