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春様へ
相互記念感謝です!



此処は、カシアの村。
そこには、子供達の笑い声が、とても響き渡っていました。
鬼ごっこ、かごめかごめ、縄跳び・・・。
様々な遊びをする中、
一つ、寝息のような吐息を感じました。

短い黒髪を無造作に投げ出し、その小さな体は大の字になっています。
少々大きな水色のスカーフに、黒のノースリーブ。それにクリーム色のショートパンツ。ついでに裸足。
スカーフを除けば、見事に夏のスタイルです。
その小さな子供の名前は――桜花。
桜の花の別名で呼ばれるその名称は、桜花自身、気に入っている名だ。

「ひびきがすき」・・・それは、桜花自身が自分の意思で言った言葉。
だが、肝心の本人は昼寝中。
起きる気配も、微塵も感じられない。

それもそのはず。
何故なら、今は夏ではなく、【春】だから。
この季節、花粉症で苦しむ人間には地獄の季節。
だが、全くの健康体である桜花にとって、この日差しとやわらかな風は、眠気を引き起こすのに十分なものだった。
しかも、調度いい所に大きな樹もある。いい具合に日差しを桜花に降り注がせる。
抵抗することもなく、今は夢の世界へと誘われているのは、当然の結果だった。



・・・と、
ひとつ、人影が見えてきました。

短い菫色の髪に、女の子顔負けの白い肌。そして――純度の高い真紅の双眸。
その顔がとても整った少年の名は――ルディア。
勘違いされると困るので一応言っておきますが、ルディアは男の子です。
その少年の格好は、半袖の綺麗な黒いYシャツに赤いネクタイ。黒い長ズボンに奇麗な黒い靴。
此処まで来ると、服を換えろと言いたくなりますが、何せ美少年。誰も言うはずがありません。

美少年ルディアは、何とも気持ち良さそうに寝転がっている桜花を見て、深い溜め息を、一つ
つきました。
「・・・オレが勉強していた間、お前は寝ていたのか・・・」
少年の心からの呟きは、残念ながら夢の中にいる桜花には全く届きません。
ルディアはゆっくりと腰を下ろし、勉学に使われた本をぶちまけました。
本は大切にしないといけませんよ、少年。

「・・・寝てる時は、大人しいのか・・・」
まるで皆を照らす太陽が、沈んだ月の様な・・・そんな錯覚を起こしました。
ですが少年、その眼差しは、とても優しい光を放っていました。
残念ながら、当の本人は気付いていませんが・・・。

「・・・オレも、寝るか」
あら吃驚! 少年、珍しく昼寝をする模様です。
言ったのなら、もう誰も少年を止められません。
少年は柔らかい草の上に寝そべり、頭の上で両手を組んでいました。
勉強で疲れた頭では、流石に此処にいることは辛いのでしょう。
少しずつですが、瞼が下がり始めています。

「・・・ここは、こんなに気持ちのいい所だったのか・・・」
ルディアの真紅の瞳も、どんどん虚ろとなってきています。
ふと隣を覗いて見ると、桜花が一つくしゃみをしました。
いくら天気が良くとも、風は吹きつけます。

流石に、昼寝をしていて風邪をひいたりでもしたら、桜花とルディアは大目玉をくらうことになるでしょう。
桜花のご両親・・・特に、母方が怒れば、一溜まりもありません。
ですが、ルディアは放っといていた自身の服を見ました。
学院に足を運んだのはよかったけれど、途中から暑くなって脱いだ、黒いブレザー。
細かい施しをされたその服は、どう見ても高そうです。

ルディアは迷うことなく、桜花の体に服を被せました。
歳は三つほど違うとは言え、体格差はあります。
見事にすっぽりと収まりました。

ルディアはそれを見て微笑すれば、桜花の顔を見ながら、ゆっくりと、夢の世界へと旅立って
行きました。



カシアの村の、ちょっとした日常・・・。


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