▼第一話 
羽の舞う軌跡 第二章

第一話「また、始まり」


自分という個を作り出しているものの奥深く、いつもは感じることの出来ない深さ。

まるで何が固定化されたものなのか、それとも実態には関係のないものなのか、まるでわからない明るい闇。

見えるのに暗い、何が見える、何も見えない。

そこにあるはずなのに、何も見えない。

見えていたものはただ色のないものに変わっていった。

何があったのか、何もなかったのか。

もう、何も見えなかった。

「……」

混濁とした意識を抜け出すと、ただの暗闇。

そう、ただの。

「……ん」

宙に浮いているようにふわふわした感覚。

「……」

今感じている暗闇はあたたかい。

不安という気持ちが薄れる。

「……どこ、ここ」

薄く目を開いた羽。まぶしさが目に痛い。

木で造られた天井、周りには軽い音を響かせている黒い甲冑。

「……?」

だれ、だったか……とても大切な人だったはず。

横になりながら首だけで甲冑を見ていた。

不意に右の顎の付け根に冷たさを感じる。

「……しゅ、が?」

うまく発声できないことを不思議に思うがそれは問題ではない。

甲冑が驚いたように勢いよく振り向いた。

そしてあわてて近寄ってくると目の前で手を揺らす。

「(お、起ぉきたぞぉおおおおおおおお!)」

ギャリギャリと鋭い音が大音量で鳴らされる。

さすがに寝ぼけていた羽もこの音には驚いてかけられていた布団を手で寄

せるしかなく、かぶるようにかき寄せる。

「うぁ、なんかよくわかんないことになってる……」

「(おい、お前もうちょっと顔見せろ!)」

布団をあっけなくはがされ、喜んでいるのか怒っているのかよくわからな
いフルフェイスヘルメットのような顔を近づけられると、少しあとずさ
り。

「(こぉの、ばかやろう。お前のせいでいろいろと大変だったんだぞ、このばかっ!)」

怒られているのだが、よくわからないことに頭を思い切り撫で回される。

起きたばかりだというのにこの仕打ちはひどすぎやしないだろうか。

次は起きることのない眠りになってしまう。

「ぅあ、き、気持ちわる……」

そうは言ってみるものの、一方的になでられ放題、そしてなじられ放題ではやけにきつい歓迎というものだろう。

「(おい、ひとりでうるさいぞ)」

「(あぁ!?)」

本当におっくうそうな声を出してシュウガをいさめたのは高い身長に切れ
長な瞳の男の人。

「……!」

最速を身上とし、不敵に笑い、巨大な鎌を軽々と操って見せ、さらにはまさしく影となって羽を切り裂いた男。

「わ、ワタルさん……!」

布団をはがして起き上がろうとする羽だが、手をついた途端に再びベッドへと逆戻り。

「はっ、じっとしてろこの重傷患者。そもそもお前というヤツはどこまでめんどくさいことにしてくれやがったんだ、まったく。ほんとに、俺じゃなけりゃどうにもなんねえことばっかりだ」

「あの、それはどういう……」

いまいち前後を思い出せないで布団にくるまれている羽にゲンコツを落と
す。

「いったぁ!」

「(おい、いきなり何してんだ!)」

同じようなことをしていたシュウガからも非難の声。

あまり釈然としないながらワタルのほうを向くと、ずびしっ! と指を突きつけられた。

「ったく、ほんとにお前はめんどくさいヤツだ。いいか、俺がこれから最速で説明してやるからなっ!」
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