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ぴたっと、今泉の動きが停まった。顔も耳も真っ赤になった。あ、やべえ……。すごい硬直してる。信じられないって目で見られてる。忘れてたわけじゃない。オレは今泉の告白断ってたわけで。なのに、こんな不用意に好きだなんて言葉言ったら今泉でなくても驚くよな?
「な、何お世辞言うんですかもうっ!」
好きって単語、後輩としてとかそういう意味で取ろうと努力しているのがありありと見て取れた。恋愛の好きじゃない、勘違いするな動揺するなって必死に言い聞かせている今泉。その様子がすげえわかった。
……今泉、まだオレに惚れててくれてるみたいだ。きっぱり諦めるとか言ってたけど、まだ大丈夫みたいだ。今まで全然態度なんかに出さないで、前まで通りの先輩後輩関係ってカンジのスタンスで接してきたけど。必死になって、きっと。抑えてたんだろうな今泉は。
だったら今が。チャンスなんではないだろうか。そんでもってここを逃したらいけないんじゃないんだろうか。
判断力と決断力。長年培ったそれが、今ここで前に進めるべきだとオレにささやいてくる。
「なー、今泉」
「な、なんですかっ!そ、そういえば会長達戻ってくるの遅いですねっ!俺ちょっと職員室行って見てきましょーかっ!」
話、誤魔化して。そそくさと、出ていこうとして。でもオレはそんな今泉の腕を掴んだ。逃がしてたまるものか。
「いっ!」って小さく今泉は叫んで、そんでもって顔どころじゃなくて全身めちゃめちゃ真っ赤になって硬直してる。あー、なんかこー、すげえ可愛いなコイツ。
「体育祭終わったらオレと一緒に出かけねえか?」
「は、あ?」
「二人で」
「へ?」
「デート的に」
「ええええええええええええええええっ!」
……腰、抜かさなくてもいいじゃねえか。そんなに驚かなくてもなーってオレはちょっと思った。
「オマエからの告白、断っちまってごめんな。だけど、オレさ、オマエ好きなんだよな」
「す、すすすすすすきって……」
「気に入りの後輩って言うのと恋愛の好きって言うのとちょうど中間みたいでさ」
「へ?」
「どっちに傾くか、オレにもわかんねえの。だから、猶予くれねえかなって」
ちょっと嘘、混ぜた。そーゆー趣味ないって告白断っておきながらこんなこと今更言うのもなんかなとか思ったけど、過去の取り消しなんで出来ねえから。だから猶予っていうのは寧ろ、オレの気持ちを今泉に信じてもらうための期間。
「試しで悪い。だけど、もしもオマエの気持ちまだ変わってないなら。オレこと好きでいてくれてるんなら、時間が欲しい」
「か、和成先輩……?」
「断っておいて今更って思われるだろうけど、試しにオレと付き合ってくれないかな?」
「た、たたたためしって……」
「多分、好きになりそうな予感してんだけど」
今泉は口をパクパク開け閉めして、で、もう声も出ないらしかった。
「駄目か?もう遅い?オレのことなんてふっきっちまった?」
ぶんぶんぶんぶんって今泉は首を横に振り続けて。
「返事は後でいいから。……考えておいてくれよな?」
そんな趣味はないとか言って今泉の告白断ってんだけどな。でもどうしてもオレは今泉のコト気になっちまって仕方がねえし。多分、オレは、オレが今自覚してるよりももっとずっとコイツのことが好きになる。そんな気もするし。
真っ赤になったままへたり込んで硬直している今泉がやっぱどうしても可愛くて。キスしちまいてーなーとか思ってるんだけど、そんなことしたらきっとコイツは卒倒するよなーとか何とか。そんな不埒なことを考えながら取り合えず、駄目押しに笑顔を向ける卑怯者のオレ。

−ACT,2 桜庭隆一 に続く−




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