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和成先輩は向陽会長と牛丼食べて帰るって言ってたけど、オレと今泉と梶山は遠慮するふりをして、それで校門のところで先輩達と別れて、それで。先輩達に出会わないように別の駅のファーストフード店にオレと梶山は今泉を無理矢理引き連れていった。
「で、今泉?さっき和成先輩と何があった?」
にっこりと超笑顔で詰問。オレと梶山の両方から問い詰められて、今泉は真っ赤になった。
梶山はキラキラしい好奇心剥き出しの目だけどオレは真剣。一応オレたちは今泉の恋を成就させよう作戦を水面下で進行中なのだ。ま、今泉に知られたら余計なお世話って怒られちまうから、あくまでさり気なーく、隙あれば今泉と和成サンを二人きりにしてみましょうって程度しか出来ねえけど。あ、あとオレは下心アリで、そんでもって梶山は単純に面白がってだけど、な。まあ、そんなこと、今泉にはもしかしたらバレてる……かも、だけど。
「え、ええええええええっと!」
「和成先輩となんかあったんだろ?ほら吐け、はいちまえっ!言えば楽になるぞー」
やっぱり梶山が面白がってる。他人の恋路は楽しいなーとか顔にありありと書いてある。悪いヤツじゃねえんだけどな、コイツ。
「ええと、ね。い、いっしょに出かけないかって、和成先輩が……」
体育祭が終わったらだけどってぼそぼそと呟く今泉。
「おお?デート?」
「すげー、やったじゃん今泉っ!」
「えええええっと、そんなんじゃ……ない、かな、あるかな?」
「あるだろー?」
ますます真っ赤になる今泉。
「告白して良かったんじゃねえのやっぱり」
「……一回ふられてるんだけど」
「いーじゃんいーじゃん。そんなの前ふりじゃん。告白して意識されたんだろ?そんでもって先輩真面目だからすげえ悩んだんだろ?今更とか言わねえで今から頑張れよ今泉。敗者復活戦じゃん。もう後ないぜー」
「う、うん。そうだよね。頑張るべきだよね俺っ!」
うっし、って気合い入れてる今泉に、その今泉を煽る梶山。多分、今泉は頑張るんだろう。頑張りどころだよなぁここは。今泉は入試の時に和成先輩に出会ってそんで憧れて、その憧れの気持ちを持ったまま生徒会に入ったんだ。すげえ一途なヤツってオレはいつも感心する。中学の頃も実はオレと今泉は同じクラスだったんだけど、その時はコイツ全然目立ちはしなかった。話とかもほとんどしなかった。名前知ってる程度のクラスメイト。図書委員とかやってさ。真面目にコツコツ内申点取ってってカンジの影の薄いヤツ。それなりに成績は良かったからイジメとかはされなかったけど。大人しいってだけの印象しかない。それが生徒会に立候補、だ。中学の時の今泉からじゃ考えられない。だけど、今泉は和成先輩に認めてもらいたいって一心で頑張ってさ、次期には生徒会副会長にまでなるんだぜ。恋の一念てすげえんだなああああってマジでカンシン。だから、オレは今泉の気持ちを茶化すようなことはしねえの。なるべく協力。さりげなーく、だけど。
今泉の気持ちが叶うといいなっていうのは友達としてのオレの偽りのない気持ちではある。その気持ちに嘘はない。和成先輩が今泉とくっついちまえばいいなって本気で思う。いや、友の幸せを願うなんてキレイな気持ちだけじゃないんだけど。だってさ、今泉の気持ちが成就したら、向陽会長失恋するじゃんってさ。そしたらオレがつけ込むすきが出来るなって。そーゆーちっとズルイ考えも、かなりある。
ちなみに和成先輩を本気で好きな人間は、何も今泉だけじゃない。憧れてる奴なんかめっちゃいる。想いを秘めてるヤツもオレが知ってるだけでもアイツにコイツに、と列挙できる。みんな、望みがないからって告白しないだけ。向陽会長も、なんだよな。まあ、あの人の場合は秘めるっていうより「かぁずなりいいいい、愛してるよーん」なんて冗談に紛らわせてって感じだけどな。だけど目は本気。ホントに好きなんだなってオレはずっと悔しく思ってた。
だけどごめんね、和成先輩のことは諦めてください。だってオレだってずっと向陽会長のコト、見てた。それこそ向陽会長じゃなくてこーちゃんとかカズさんとかって呼んでたガキの頃からずっと、だ。……まあ、覚えてねえだろうけどな二人とも。っていうか覚えてなかったし。生徒会の選挙勝ちぬいて、久しぶりに会った時になんて名前言っても「はじめまして、これからよろしく」って感じだったしなぁ。あー、チクショ。オレってそんなに印象薄いかなー。ああ、でもしかたがないか。あの頃のオレはこーちゃんとカズさんの後を付いて回ってたチビで足手まといのガキでしかなかったから。どーせ、とろとろ後にくっついてくるチビ達の中の一人くらいにしか認識されてなかったんだろーなー。二人とも、チビの時のオレにとってはすごい憧れの存在だったんだけどな。だけどもうオレはあの頃のチビじゃない。色々頑張ってきたんだぜ?二人に追いつこうとしてさ。結構ケナゲっしょ、オレもさあ。そんな頃からずっとオレはひまわりの花みたいな真っ直ぐなこーちゃんの笑顔、見てたんだ。陰りなんかない天真爛漫な笑顔が好きだって思ってたんだずっと。この高校入ったのも、こーちゃんを追っかけて、なんだけどな。




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