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無理矢理腕引っ張られてステージの袖にまで引きずっていかれたけど。
「えーと、先輩ごめん……」
先輩の耳が、なんか赤いし。必死になって感情抑えてる、みたい。不意を突いちゃったかな?
「……いや、ソーヤ君、当たりなんだけどその、頼むから言わないでくれないかな……」
片思い、なんだっけ先輩も。
でも、羽鳥先輩がドラマで使う曲を録音していた時。気持ちを伝えるつもりはないとか言っていた時の顔と今の羽鳥先輩の顔、微妙に違うし。
なんだろう?そう、諦めたみたいなカンジが、今の先輩の表情にはないんだよね。あー、これはもしかして?
「えっと、違ってたらごめんなんだけどダブルで。先輩さ、あの……告白とか、した?」
うん、さっきケイタイの待ち受け見てた目も、柔らかくて優しかったかし。
多分、だけど。でもきっと俺の予想は外れてない。
「……ソーヤ君に手伝ってもらった歌、あっただろう?」
「うん」
「あれ、渡して……、それでうっかり伝えてしまって、」
うっかり?……でも結果オーライだったんでしょ?そうだよねって俺は思う。だって羽鳥先輩、手で口元抑えて視線逸らしてるし。えっと、照れてます?
「で、先輩は上手く行ったと……」
「おかげさまで……」
いいなあ。よかったなあ。先輩が幸せならいーや、っていうよりもうちっと羨ましいや。
だって俺は、俺の気持ちは上条さんに断られて玉砕だし。情けないことに、断られてから俺は俺の気持ちに気がついたし。
でも、ああ、いいなあ。先輩がウラヤマシイな。
半分諦めてたような感じだったのに、思い溢れて告白して、で、上手く行ったのか。
俺も、いつかそのうち。先輩みたいに気持ちが伝わるかな。
上条さんに伝わるかな?
伝わって欲しい。
でも、直接はもう言わないし言えないから、だから歌で、叫ぶ、しかないんだけどね今の俺には。
「よかったね、先輩」
ウラヤマシイけど、この子だって思ったけど。事情がある子とくっついたばっかりなら、無理にプロモ出てとか頼んでそれで羽鳥先輩との間がぎくしゃくしたりしたら申し訳ないから頼みこむの諦めようかと思ったんだけど。でも……って躊躇していたら、
「……てことはつまり、この子は羽鳥の恋人ってことだな?」
上条さんが。
どこからともなく湧いて出てきたよコノヒト。
「うっわっ!びくったああっ!」
「か、かかかかかみじょーさんっ!」
ちょっと、何時からどこから聞いてたんだアンタっ!気配無かったぞ気配っ!こんなでっかいおっさんがっ!あああああ、びっくりしたっ!わざわざ羽鳥先輩が俺の腕引いてステージの袖まで引っ張って来た意味はっ!
「つうことはあれだ、羽鳥。恋人なら多少無理聞くだろ頼みこめっ!口説き落とせ羽鳥っ!この子、ソーヤのプロモに出てくれるよう説得してくれっ!」
……必死の形相で、大柄なおっさんに迫り来られると恐ろしいですよ、上条さん。
なんて、想い人に対して大変失礼な言い方だけど。
そうでなくても俺達のバンドのデビューのために必死こいてくれてるんだからありがたいんだけど。
ぶっちゃけ怖いよ、上条さん。
さすがの羽鳥先輩も、断りきれなくて、引き受けてくださいました……。ごめんね、先輩。でもありがとう。

そうして、先輩がどうやって説得したのかわからないけど。
その恋人サンは快諾してくれたようだ。
違う。
訂正。
……羽鳥先輩が頑張ってくださったに違いない。感謝!

そうして、プロモ撮影はその子が住吉オーナーのライブハウスに来られる日を待つことになった。実物、どんな子かなって俺はすごい楽しみで。
先輩の恋人サンに会えるの楽しみっていうのもあるし。
これでプロモも完成だっていうのもあったし。
なんかね、わくわくしてた。
楽しみ。小学生の遠足の前日みたい。
はっきり言って浮かれてる一歩前。
それにね、ここが正念場でしょう。
本気出して歌う。
いや、そうじゃない。俺はいつだって本気で歌ってきたと思う。その時々の全力で。
だから、本気とかそうじゃなくて。
全力で、運命を掴みに行く感じ、かな。そういうのが一番近い気持ちかな?
武者震い、までしそうな。
鳥肌とか立ちまくりそうなくらい、前のめりで。
だから、歌って。
この気もちのまま歌いまくってやるって、それだけを、思った。
 
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