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そうして辿り着いた省吾君のマンションは結構大きくて新しくてすごい立派だった。うーん、あの子、自分でこんなマンション買ったのか―。すごいなって思う。敷島の家のお金なんてほとんど使わないで自力で稼いでるんだよね。小説家とか言ってたっけ。陸斗、省吾君の書いた小説読んでなんか眉間にしわ寄せてたけど、外国語だからおれには何が書かれているかよくわかんない。
でもすごいなあ。
おれもね、省吾君みならって自活しないといけないんだよねうん。
とりあえず、家出、してみたけど。
こうやって弟のところに頼っているあたりやっぱりおれは自力じゃ何にも出来ないんだなーって思うけど仕方ない。
レベル、小学生以下だしおれ。
せめて中学生くらいになりたいな。……もう三十もとっくに過ぎてるけどおれ。選挙権どころかその選挙に無理矢理出馬、させられちゃう家柄だけど。
はあ、とため息つきながらオートロックのインターフォンで省吾君の部屋の番号を押す。
そしたら「はーい、どなたですかー」ってすんごい可愛いカンジの声がした。
……ええと、これはいくらなんでも省吾君じゃない。そりゃあ今の省吾君なんて知らないけど。だって最後に会ったの確か省吾君が中学生くらいだし。今じゃ立派なオトナだろうし。
ええと、暫くボーっとしていたら。
「ええと、あの、どちら様……?」
ってもう一回聞かれちゃって。おれは慌てて「あ、あのすみません!敷島美津喜と言いますが省吾君居ますか?」って言ってみた。
「え、と、省吾、サン、ですか?」
「あ、はい。おれ、省吾君のおにーちゃんで……」
……兄、とかいうべきだった、のはわかるけど、おれも焦ってたから。
ええと、不審者じゃないですよーないですよーって焦る。
「え、省吾サンにおにいさん居たんだ!」
向こうもなんかびっくりしているみたいで。
「え、ええと、正確には父親がおれと省吾君一緒で。母親は違うんだけど、おれのおかーさん、正妻で、省吾君のお母さんはエーとその、言葉悪いけど愛人さんのってやつで、それでおれ、省吾君に用事っていうか聞きたいことっていうか頼みたいことがあって……」
あああああ、おれ、説明すごい下手!
こんなおれを選挙に担ぎ出そうとする榊は馬鹿だよね!いや、榊派頭いいから馬鹿はおれで。
えーと、えーと、ってインターフォンごしに困っていたら。カチャって小さい音が。
「あ、あの、とりあえず、オートロックあけましたから。五階まで上がってきてください……」
「あ、ありがとう!」
愛人だの正妻だの、そんな込み入った家庭内事情を少なくともこんなところで話すよりも部屋に来て下さいって意味で開けてくれてんだろうきっと。うん。
そんなこんなでなんとかよろよろと、おれは省吾君の部屋に辿り着いた。
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