Time 院長の診断
 シュリーの目は細くなっていて、ふせのままで動かない。
「ごめん、スー。シュリーをつれて帰る」
 もっと話していたかったが、シュリーにとっては一大事だ。鈴も「大丈夫だよ」と麻里を送り出してくれた。
 麻里はシュリーを両手に抱きかかえて家に向かう。走っている間も、シュリーはぐったりとしていた。
「ルートを変えればよかったわね……」
 麻里の母、美月は麻里が帰ってくるなり、ぐったりしているシュリーを見てつぶやいた。
「今日は暑かったものね。いつもの道だと木陰が少ないでしょう」
 心配そうな美月に、父の大介もシュリーの体に手を当てる。
「念のため、動物病院に連れて行こう」
 つとめて明るく大介は言った。シュリーを車に乗せ、行きつけの動物病院へ連れて行く。
 病院で診察カードを見せ、待合室で待つ。
 待合室で軽くシュリーの様子をみてから、看護師さんは急いで戻っていった。
「院長先生」
 しばらくして、院長が診察室から顔をのぞかせた。
「井上さん、シュリーちゃん、どうぞ」
 若い院長の顔は、あまりおだやかではなかった。

「井上さん、今回は……?」
 院長がおそるおそるの様子で聞いてくる。
「散歩の途中、暑かったようでぐったりして……」
 代表して言った大介の言葉に、院長と看護師は顔を見合わせた。
「あまり軽い状態とは言えませんねぇ……」
「ええっ」
 麻里が声をあげた。
「シュリー、何か病気なんですか?」
 冗談であってほしいと願いながら、院長と看護師に問う麻里。しかし、そんな麻里をよそに院長は重々しくうなずいた。
 先生が軽くシュリーの体にさわる。急いで冷たいタオルを持ってくるように看護師さんに命じる。シュリーの体に素早く冷たいタオルがあてられた。
 それを見届けてから、院長は麻里たちに説明した。
「シュリーちゃんは、夏バテしていたんだと思います。少し体も弱っていますし」
 麻里と美月が顔を見合わせた。
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