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「アムロ、寝てしまったのか?」
「いや、起きてるよ」
「返事がないからまた眠ったのかと思ったよ。だるいのならもう少し休んでいるといい。今日は日曜だしな」
「そうだね。じゃあシャアも、もう少し休んだら?貴方だって満足に寝てないだろう?」




向かい合わせに向きを変えると、シャアはアイスブルーの眼を細めて微笑んだ。
アムロにしか見せない、他の誰もララァでさえも見たことのない、素のシャアの笑顔。
それはアムロの心に深く染み込んで、アムロを形成する細胞の一つになっていく。
与えたものと同じものがアムロからシャアに分け与えられ、それもシャアの細胞になる。
シャアと想いを等価交換できるのは、アムロ一人だった。
例え同じ性を持つ身であろうとも、シャアとアムロは運命で結ばれた半身だった。



「珍しいな…君が私を心配してくれるとは」
「失礼だな。俺はいつも貴方のことを心配してるじゃないか」
「それは私が馬鹿なことを言い出したり、しないように、だろう?」
「勿論。でももうそんな事する気ないクセに。俺は知ってるんだよ、シャア」
「それはそれはよくご存知だな。では、私の今の野望が何かは知っているのかね?」




シャアが悪戯を思いついた少年にように眼を輝かせた。
アムロと暮し始めてから、シャアは様々な表情を見せるようになっていた。
多感な少年時代にシャア自ら封印した、等身大のシャアの姿がここにある。
何者にも捉われない、自由なシャアの生の感情だった。



「貴方の野望?そんなものあるのか?憑き物が落ちたみたいにさっぱりした顔してるくせに」
「それは恐らく、今朝方まで豪勢な晩餐を、心ゆくまで食した所為だろうと思うがね」
「何気に恥ずかしい事言うなよ」
「君の慌てる顔が見たいのさ」
「おい、まさかソレが野望じゃないよな?違うと言ってくれ」
「ほう、それも一興か。だが残念ながら違う。私の野望はね、アムロ」




旧世紀の太陽神か大天使長もかくや、という笑顔を浮かべたシャアが、アムロに囁いた言葉。
聞いた瞬間、アムロはシーツに突っ伏した。



「………」
「どうしたかな、アムロ?」
「何でもない…あのさ、貴方仮にも元総帥様なんだからさ、もうちょっとスケールのあること言ってみようよ?いくらなんでもそれはみみっちいと俺は思う」
「そうかね?今の私には重大過ぎる懸案なのだが。むしろ一番の夢と言っても過言ではない」
「あーもーやめ!!貴方の口からそういうの聞く羽目になろうとは!何でそう恥ずかしげもなくはっきり言えるんだ?俺がうんと言わなかったら貴方どうするつもりだ?」
「恭しく跪いて、懇願でもしてみようか?」
「やめろよ…もう。解ったよ、言う通りにするよ!」
「本当かね?」
「男に二言はない!全く…!この我侭男め!」
「ささやかな、と付け足してくれたまえ。誰だって想う相手が傍にいたらそう願う筈…違うかな?」
「…違わない…」




だろう?と再び綺麗に微笑まれて、アムロは毛布を引っかぶった。
(まあ、冷たいベッドに潜り込まなくていい分、ヨシとするか。はぁ)



「今夜から冷たいベッドに入らずに済むな、君は温かいから」
「俺は湯たんぽかよ!」
「まさか。大切な私の半身に決まっているだろう?ハニー」
「うわ、ハニー言うな!」




照れ隠しの軽口を叩いて、シャアとアムロは笑いあった。
どんなに凍える夜でも、誰かと寄り添えば暖かい。
それが想い合う相手ならば尚のこと。






『私の野望はね、アムロ。君と毎晩、こうして共に眠ることだよ。叶えてくれないか?』









[後書…Y上さんからリクエスト頂いた、フルコース・ディナーの事後篇です。
色っぽい表現を目指してみたものの、どこが?な感が否めない…すみません、ご期待に添えられてるかどうか疑問です。
この二人が幸せだととても嬉しい管理人です。今じゃすっかり赤白はセットになりました(笑)]
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