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(私は自由、か…。もう無理して心を偽ることも、道化を演じる事も、したくない事をしなくてもいいのか。思うように生きていいのか。エゥーゴの後継者になどなりたくなかった。面倒なだけの政治介入もしたくなかった。私は…只のMSパイロットで居たかったのだ、本当は。ヘンケンやブライトの下で、アムロやカミーユ、ファやエマと共に戦っていたかったのだ。何もかも失って、やっと<自分>が手に入るなど、皮肉なものだな…。否、全て失くしたわけではない。
此処にはアムロがいる。どんなに手を延ばしても決して道が交わることのなかった、手の届かなかった至宝の存在だけは、こうして傍に残して貰えたのだから…)
手を引くセイラとその先に見えるアムロには、優しい笑顔が浮かんでいる。
ずっと、どうやって贖罪すればいいのかと悩んでいた。
地球を、そこに暮す人々を、地球の汚染を防ぐ為という大義名分の下に、粛清しようとした愚かな自分をどうやって罰せばいいのか…
嘗てティターンズの悪行に心底憤り、自己を封じてまで世に知らしめたあの頃の自分が、どこをどう間違えば、人間が人間を裁くなどという傲慢な考えに行き着くのか。果たされていれば、確実に後の世で自分は独裁者、稀代の極悪人になっていただろう。
確かに自分は地球の未来を案じていた。だが同時にそれを食い止める人の革新と可能性を信じてもいた。
なのにそれを僅か数年で、真っ向から打ち砕こうとしたのもまた自分だった。
本来ならアクシズと共に業火に焼かれ、消滅する運命だった自分が、アムロのお陰で生き延び、セイラの助力を得て手に入れたこの穏やかで幸せな生活も、いつしか自分の業で失うだろうと心のどこかで恐れ、諦めていた。
なによりも、たった一人の妹だけは、決して自分を許しはしないだろうと。
でもそれはシャア一人の勝手な妄想でしかなかった。
アムロもセイラも、シャアにとって一番身近で己以上に大切な二人は、とっくにシャアを赦してくれていたのだから。
(ここには、私に取り入ろうとする輩も利用しようとする輩もいない。いるのはそのままの私を受け入れてくれるアルテイシアとアムロ。私が人を傷つけることも、人から傷つけられることも嫌悪し、身を挺して護ろうとしてくれる二人だけだ。私には…アルテイシアとアムロを悲しませるような事は、もう二度と出来はしまいよ。この二人を失えば、今度こそ私は命を捨てるだろう)


着替えもしていないシャアは草臥れた格好をしていたが、その表情には宿酔いの翳はなく、どこかすっきりしたような吹っ切れたような清々しさを纏っていた。
朝日を浴びて光を弾くその金髪のように、真冬の澄み切った青空を思わせるアイスブルーの瞳のように。
(なんか、シャアが眩しい、ような…)
こしこしと目を擦ってみるが、逆光もあって眩しさが消えない。
余程不思議そうな顔をしていたのだろう、シャアが小首を傾げてこちらを見ている。

「アムロ?目をどうかしたのか」

(ああ、なんでそんな綺麗に笑うかなぁ、もう!頼むから、外で誰彼構わず笑顔振りまかないでくれよな!ある意味犯罪だよソレ!)
僅かに赤くなったアムロの心の内を読んだのか、セイラがくすりと笑う。

「兄さんの笑顔は門外不出ですって。そう言いたいんでしょう?アムロ」
「はぁ?」

(ああ。まさかシャアの酢頓狂な声を聞ける日が来ようとは、流石の俺も考え付かなかったよ、セイラさん)
(そうね、でも…これからちょくちょく聞けるかもしれなくてよ?)
目で問いかけたアムロに、セイラも目で応える。きちんと伝わっていたのが不思議だった。

「さ、二人とも食事の前に顔だけでも洗って下さるかしら。どうやら宿酔いは無いみたいだし、気持ちよく食事しましょう。後は私がするわ」

セイラに有無を言わさず促され洗面所に向うシャアとアムロは、心の中で囁きあっていた。
(絶対、頭上がんないよな、セイラさんに)
(ああ。誰にでも優しかったアルテイシアが…何であんなに怖くなったものか…)
(そりゃあ勿論貴方の所為に決まってるだろ。自業自得だよ、シャア)
(……やはり、君もそう思うかね……?)

「何か言って?」

キッチンからセイラの声が聞こえてくる。

「「いえ、何も言ってません!」」

同じタイミングで同じ言葉を返し、(心の中だけの会話すら出来ないなんて、NTとは結構不便なものだな…)と、顔を見合わせて同時に溜息をつく二人だった。



この日以降、シャアが鬱状態に陥り、二人を心配させる事は無くなった。








<<後書&言い訳>>
以前書いたまま放置してたものの加筆修正です。当初は笑い話にする心算が、何故かシリアステイストが加わる管理人の悪い癖。
性格的にお笑い要素は薄いのか、ノリが悪いのか。多分天然で、へんなとこが可笑しいのはシャアと同じだろうと思います(笑)。蠍座だし誕生日二日しか違わないしねぇ。
この時系列はワンコが来る前、です。元気になったシャアは、愛娘を飼育することで本来の自分を取り戻していくんですよ〜。
シャアの印象が柔らかくなるにつれて知人や友人が増え、市井で暮す人々に受け入れられていくといいな。
二人とも持ち前の行動力と才能を如何なく発揮して、なくてはならない存在になってたりしてね。街の人々がシャアとアムロを護る砦になっていったり…と、妄想だけは膨らんでいく管理人の脳ミソを、何方か叱ってやって下さい。
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