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「ね、ねぇシャア。このお嬢さんは、シャアに乗り上げたり転げまわったりして遊ぶのか…?」
「何だいきなり。当然だろう?君の言う通り、まだ子犬の範疇から出ていない。外で遊ぶ時は地面を転がっているよ。お陰で洗濯物が増えて仕方ない。それがどうかしたのか」
見たまえ、とシャアは自分のシャツをつまむ。そこには金色の抜け毛が沢山付いていた。
それにも増して、まさかあの赤い彗星の所帯じみた台詞を聞こうとは!
もう一つ言えば、『父さんは許さんよ』と『まして野良になど』発言か。
(あのシャアも、親父になったらそんなこと言うんだ…しかも娘は生後3ヶ月のワンコなのに…!!)
噴出しそうになるのを必死で押さえ込むアムロだった。
「人も犬も同じだねぇ」
「ん?」
意味深な独り言にすかさず反応される。
シャアを見ると、なにやら企んでいそうな目で自分を見ていた。
嫌な予感がした。
「いや?いい男の前ではメロメロになっちゃうとことか、可愛い娘はお嫁に出したくないとかさ…」
引き攣りそうな笑みを無理矢理浮かべてそう言えば、シャアの浮かべる笑みが深くなる。
「ほほう…?アムロ。正直に言ったらどうかね」
「え、な、なんて」
「たった一言だろう?”妬ける”と」
「な…!」
「顔に書いてある。それに段々赤くなっても来たようだ。どうやら図星だったらしいな」
アムロをからかう時だけ、シャアは少し意地悪になる。
反応が楽しくてつい構いたくなるのだ。
「なんでアンタに妬くのさ!人聞きの悪い事言うなよ!」
「まあまあアムロ、素直になりたまえ。アストライアはあくまでも娘、しかも犬だ。それ以上でもそれ以下でもないよ。…だが…君が妬いてくれるのは非常に嬉しいものだ。もっと妬いてくれるように見せ付けてあげよう…なあアストライア?」
そう宣言すると、シャアはアストライアにキスをして、にっこりと微笑んだのだった。
「こンの小悪魔と大魔王め…!俺は近親相姦なんて許さないぞ!」
「これは酷いことを。父親たるものが娘に劣情を抱くものか?それこそ人聞きが悪いというものさ」
悔し紛れの台詞にも動じず、大魔王シャアに命じられた小悪魔アストライアは、アムロに跳びかかって嬉しそうにじゃれるのだった。
「こらっアストライア!オイタが過ぎるとお兄ちゃんがお仕置きするぞっ!!」
反撃に出たアムロがアストライアの体を抱え上げると、シャアが面白そうに呟いた。
その一言は、かつての白い悪魔アムロ・レイを撃墜させるに、十分すぎる威力を持っていた。


「アムロ。お兄ちゃんではなくお母さんの間違いではないのか」



宇宙ではアムロがシャアを撃墜した。だが地上ではシャアに敵わないらしい。
それが重力の所為なのかどうかは解らないが、項まで赤くしてぐったりと床に伸びてしまったアムロ。
その背中の上に<伏せ>をして、アストライアは御機嫌な様子で尻尾を振っている。




「君も躾に関わらないと、愛娘になめられるぞ、ん?」
「もう遅い気がする…」
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