*未来へ紡ぐ哀愁歌
凍てつく夢の、悲しい恐怖に襲われた


*未来へ紡ぐ哀愁歌*



日は既に変わり
空の闇がその深さをより一層増す頃
綱吉の寝ているベッド脇に1つの影が現れた。

物音1つ立てずに佇んで綱吉を見つめていたそれはどこか不安げで。

「・・・ん・・誰・・・?」
「おや、起こしてしまいましたか。」
「・・・!骸!!」

最初はやや寝惚け気味だった綱吉だが
今隣にいるのが骸だと認識すると途端に目に光を宿し、直ぐに起き上がって骸の両腕を掴んだ。
見上げる瞳は再会の嬉しさと心配の色をしている。

「大丈夫なの?具現化して。」

ベッドから出ようとした綱吉をそっと押し戻し
骸は悲しい表情のまま苦笑を浮かべた。

「綱吉、悪いのですが少々僕に唇を貸してください。」
「えっ・・・?一体どうし・・・っ。」

言葉の途中で唇を重ねられたと思った瞬間舌がねじ込まれ
両者の口内に唾液が溢れてきて
久しぶりのキスは半ば乱暴なものだった。

綱吉は骸の異変に気付いたのか
苦しくても抵抗せずに骸に口を預けている。

唇が離れた後は
互いの口の回りに付いた唾液と2人を繋いだ銀色の糸が
そのキスの激しさを物語っていた。

「突然すみませんね。」

綱吉の口に付いた唾液を拭いながら謝る。
見上げると、表情は先程よりは柔らかくなっているようだった。

「理由があるんでしょ・・・?」
「・・・夢を、見たんですよ。」
「夢?」

綱吉が聞き返すと、骸は一瞬間をおいて口を開いた。

「一瞬の夢でした。
 君が遠く、僕の手の届かないところに声を掛ける間もなく行ってしまったんです。」

綱吉は大きく目を見開く。

そんな、それだけで・・・?

具現化はかなりの力を使うため
いくら骸といえど負担が大きい。
それなのに
夢なんていう非現実の世界で起こった事でわざわざ?

「・・・馬鹿げているということは分かっています。
 しかし、今の僕の支えは綱吉、君だけなんです。」

オッドアイの瞳が揺れ、骸は尚も驚きを隠せない綱吉の頬をすっと撫でた。
至近距離で見つめられ、綱吉は思わず頬をほんのりと紅く染める。

「それに、綱吉の姿を見たのはとても久しぶりだったので、無性に会いたくなってしまったんです。」
「でも、具現化なんて・・・」

全てを言い終わらないうちに骸は綱吉の体をきつく抱きしめて言葉を切らせた。
スプリング音がギシリと1つ、骸がベッドに乗ったことを知らせる。

「君のためなら構いませんよ。もっとも、今回は僕の私情ですがね。」

頭から優しく擽るような音が降りかかり
綱吉も骸の背中に回した手に力を込めた。

「でも、体を大事にしてほしいよ・・・」
「確かに具現化すれば、体に多少の負荷がかかるのは免れません。」
「ほら、やっぱり・・・。」
「しかし、」

骸は手を体から頭へと移動させ綱吉の柔らかな髪に顔を埋めた。
綱吉は気温と心臓の高まりのせいで頬が先程よりも紅潮している。

「君に会えない方がよっぽど辛い。心臓が押し潰されそうなんですよ。」

口が動く度
骸の顔の埋められている部分が徐々に吐息で熱を持っていく。
久しぶりに骸の体温を全身で感じて、綱吉は肩を震わせ涙を流し始めた。


「好きです、綱吉。会いたかった。」
「俺も、すっごく、会いたかったよ・・・」


その後しばらく抱き合っていた2人はやがて徐々に腕の力を抜き
優しく微笑む紅と蒼の瞳と、涙で潤んだ大きな瞳の視線が交差した。
骸は右手を覆う漆黒の手袋を嚙んで外し、綱吉の溢れた大粒の涙を拭ってやると
今度はそっと、唇を重ね合わせた。
またしても綱吉の目からは雫が滴り落ちたが
表情は穏やかに笑っていた。


骸はベッドから降りると、乱れてしまった布団を直して綱吉に掛けなおす。
綱吉は眠気に導かれて瞳を蕩けさせた。

「起こしてしまってすみません。いい夢、見てくださいね。」
「ふぇ・・・?まだ起きて、骸といっしょに居たい。」
「その気持ちは嬉しいのですが・・・」

この先の、綱吉を悲しませるであろう現実を突きつけたくなくて
骸は言葉を途中で切った。
せめて今夜は、悲しみに襲われることなく、いい夢を。

「綱吉が眠るまでここにいますから、安心して寝てください。」
「・・・うん。じゃぁさ、手、握ってて、くれないかな・・・」
「えぇ、勿論。」

にこりと綺麗な笑顔を見せた骸に安心したのか
ゆっくり瞳を閉じると直ぐに夢の世界に入っていった。

安堵の微笑みを浮かべて寝息を立てる綱吉の表情を見て、骸の胸がちくりと痛む。


また明日、君が再び目を開ける頃には、僕は既に水槽の束縛の中、眠りに落ちているわけで。

本当はまだ顔を合わせて唇を重ねても、君にその後の悲しさを植え付けるだけ。

それを君は心のどこかで分かっていたはずなのに、それを忘れるくらい、僕との刹那の再会を心から喜んでくれて。


別れ際、もう1度だけ、そっと綱吉の唇に自分の唇を重ね合わせる。

「愛していますよ綱吉。・・・もう少しだけ、待っていてくださいね。」
「・・・うん・・・むく、ろ・・」

返事をするようにポツリと呟かれた寝言を最後に、骸は苦笑を浮かべて綱吉の部屋を後にし
再び自分の身体が眠る場所へと消えていった。

不確かな未来に綱吉との再会を誓いながら。



end




ムクツナの甘シリアスです。
最初考えていた終わり方と大分違っちゃってるんですよね・・・
最初は甘々な感じだったのに・・・!!
今回はシリアス入れずに頑張ってみようとしたんですけど
ちょっと気を抜いたらなんかしんみりした感じになっていたという。
ホントなら、再会してちゅーだのなんだのして終わる予定だったんですが。
なんでこうなるんでしょう?(聞くな
次はシリアス入れずに頑張ってみようと思います・・・。
では、ここまで読んでくださりありがとうございました!

スポンサード リンク