(R)玉虫 -たまむし- 1)

玉虫 -たまむし-





下帯を解くと、待っていたようにモノが飛び出した。
利き手で包んで裏筋をなぞると、すぐに大きさを増す。
片手全体で包み、搾るように上下させる。
先走りでぬめるのが卑猥で気持ち良かった。
「…、は…っ」
手を動かすのもイイが、手でモノをぎゅっと握ったまま腰を揺らすのもいい。
犯しているときと似ている感触が得られるからだ。
もっとも、…のナカは、こんな手なんかと比べものにならないくらいイイのだが。
ナカもいいが、口でさせるのもいい。最高といっていいくらいだ。
いや、最高はやっぱり、ナカのほう、か。
卑猥なことを考えているうちに、あっさり限界が見えてきていた。
手の動きを早め、手近にあった小布をてきとうに掴む。
「っ、――岱、…っ」
飛び出した白濁は布に包まれて、そこらの床に放り出された。




「呆れたものだ。昼間っから…」
続きの部屋から声がするが、寝台にだらしなく寝そべったまま、馬超は起きようともしなかった。
待っていても姿を現さない部屋の主に苛立ったのだろうか、寝室の扉がギィと開き、男が顔をのぞかせる。
馬超が蜀に下ってからこちら、それなりの親交がある唯一といってもいい男である。
「趙雲、…なにか、用か」
趙雲のほうなど見もせず、どうでもよさそうにつぶやくのを聞き、趙雲は嫌そうに顔をしかめた。
「用がなければ来るものか」
「じゃあ、用を済ませてさっさと帰れば良いだろう」
素っ気ない物言いに、趙雲の口調も冷たくなる。
「私も出来ればそうしたかったがな。ところが部屋の主は寝室に篭って、くだらぬ淫行に耽っているときたものだ。最中に踏み込んでやれば良かったか」
「…っは、で、終わるまで待っていてくれたわけか。それは悪かったな」
さすがに馬超もばつの悪そうな顔をしたが、それも一瞬のことで、すぐにふてぶてしい表情が浮かぶ。
馬超は隣室に誰か入ってきたことには気づいていた。
だが声も掛けて来ぬし、従者か何かであろうと思い、どうせ自慰などすぐに済むからと放っておいたのだ。
馬超の開き直った態度は、趙雲は神経に棘を刺す。
はずかしげもなく昼間から自慰にふけるなど、厚顔にもほどがある。
まして達する瞬間に、身内でもあり同性でもあり、すぐれた武将でもある従弟の名を呼ぶなど。不謹慎なこと極まりない。
『岱、…っ』
耳に残っているさきほどの馬超の声が、趙雲を酷く苛立たせた。
気色が悪い。
これまでの付き合いから馬超が従弟を偏愛しているのは一目瞭然ではあったのだが、ただひとり生き残った血族への愛着であるとしか思っていなかった。
別に、身体を重ねているからといって非難するわけではない。
男同士の関係は賞賛されることではないが、排斥されることもない。どちらかというと容認されている。
近い血族であることが問題なのかというと、子が出来るわけでもなし、倫理などどうでもよい。
趙雲の神経に障ったのは、つねに無愛想な態度と倣岸な口利きを崩さない馬超が、あのように甘やかな声を出したという、その一点だった。
「文句は諸葛亮殿に言ってくれ。岱を南方へ偵察になど出すから、このざまだ」
「……その諸葛亮殿からの書簡だ。重要書類だから本人にじかに手渡せとの命だ」
「そこらへんに置いておいてくれ」
趙雲はますます顔をしかめた。
執務室の卓には乱雑に書簡が積み重なり整理すらされていない。執務を進めている様子がまったくなかった。
「どういうことだ、この有様は」
「それも岱がいないからだ」
馬超が机仕事を怠るのは常のことだが、いつもはもうすこし片付いている。
そういえば執務の部屋だけでなく続きの寝室も、どこか乱れた気配があった。
掃除がされていないというのではないが、日常の品や脱いだ衣服などがどことなく投げやりに放り出されている。
「俺は武人だ。武人に机上の執務をさせる愚を諸葛亮殿もはやく悟ればよろしいのだ。武人とか所詮いくさでしか役に立たぬものよ。俺をいくさに出してくれれば、それでいいのだ」
「…不遜なことを言うな」
「そうだったな。お前は軍師殿のお気に入りだったな。なんでもあの軍師が「趙将軍は私の片腕」などと広言しておるとか。信頼されておられて結構なことだ」
趙雲は剣呑に目を細めた。そろそろ限界が近い。
「信頼のついでに、はやく岱を返せと、諸葛亮殿に会ったら言っておいてくれ」
この期におよんでまだ岱岱と繰り返す馬超に、趙雲は寝室に一歩踏み込んだ。無性に腹が立つ。
「そんなに従弟殿が恋しいのなら、替わりに相手してやろうか」


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